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悪い夢 3
翌日、いつも以上に寝不足を感じていたが眠いと思う感覚は薄くて
レンシアは昼休みもまた昼食を抜いて図書室へ行き、別の存在についての古書を読んでいた。
人間以外にも当然様々な生物がいるわけだが、魔法と呼ばれるものを使える生物は少ない。
妖精やドワーフといった人間とは別のコミュニティを築き、
外交はあれど一線引いて生活している存在もいるが
彼らと人間の仲は友好であり、よっぽどの理由が無ければ因縁をつけられることはない。
それに彼らもまた黒魔術の類は禁じているのだ。
可能性があるとすれば、精霊や悪魔といった存在だったが
彼らは外交どころか少し別の次元に存在しており、互いに認識する事すら珍しい。
そもそも、降霊は黒魔術に該当する為行うことは禁忌だ。
結局よく分からずに、最終的には悪魔が誘惑してくるとか祠を壊したら精霊に呪われたとかいう
オカルト的な本を読む羽目になってしまった。
たった一度見た悪夢で怯える必要はないはずだが、昨日確かに校内で似たような気配を感じた事もあり気になってしまって。
何か、よくない事が起こりそうな予感がしてならない。
だけど調べてもピンと来るものがなくて、
レンシアは諦めて本を棚に戻し教室へと戻るべく図書室を後にした。
昼休みももうすぐ終わりというのに生徒達はあちらこちらで喋っていたり、
中には仲睦まじく手を繋いだりキスをしている者もいる。
レンシアは契約の条件のためにエルメーザに月に一回は触ってもらわねばならないのだが、
キスどころか手だって繋いだ事はない。
いつだって彼は、忙しい、といって目も合わせてくれない。
別に色欲に溺れたいわけではないし、向こうだってしたくてしているわけではないのだ。
贅沢は言ってはならない。
愛してなんてもらえるわけがないのだから。
レンシアは仲良さげな二人組はあんまり見ないようにしながら、中庭を抜けて近道する事にした。
美しい噴水などがある公園のような場所で、昼休みは人気スポットだ。
「レンシア様だ…」
「今日も麗しい」
現れただけで注目が集まって、レンシアは恥ずかしくて俯きたかったが
背を丸めて歩くなとヴァガ伯爵に死ぬほど怒られていたので真っ直ぐ前を向いて颯爽と庭を歩いていった。
本当はあんまり目立ちたくないし、見ないでほしい。
だけどエルメーザの隣にいる以上はそういうわけにもいかないのだ。
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