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悪い夢 4

庭を抜けて半野外の渡り廊下に差し掛かって歩いていると、 校舎から連なって飛び出してきた生徒の肩がレンシアにぶつかる。 「おっとこれは失礼、孤児の君 濁った魔粒子は目に入りませんで」 生徒は上級生のようだった。 肩がぶつかった生徒はニヤニヤしながらレンシアを一瞥し、一緒にいた他の生徒もクスクス笑っている。 「…魔粒子は濁ったりしませんよ」 「おーおーこれだから嫌だ。成績が優秀なだけで一緒と思われちゃ困る」 「魔法を授かる器じゃないくせにさ」 「次期皇帝を誑かしてるからって調子乗ってんじゃねえぞ」 上級生はレンシアを取り囲むようにして暴言を吐き、笑いながら行ってしまった。 レンシアは、致し方ないと諦めながら少し背中を丸めてとぼとぼと歩き出した。 「…は…何にも解ってないくせにさ……バカだよなぁほんと」 ぽつりと、力のない掠れた声が下の方から聞こえてくる。 丁度曲がり角になっている所を覗き込むと、一人の生徒が壁に背中を預けるようにして床に座り込んでいる。 ボサボサの栗色の髪、 顔は俯いていて表情は見えなかったが鼻からは血が滴っている。 レンシアは彼に駆け寄った。 「…っ、まさか…今の方達が…?」 「別に…あいつらだけじゃないよ…」 膝を抱えている生徒は小さく吐き捨てるように呟いている。 笑っているのか泣いているのか、湿った息遣いをしながら彼は小さく震えた。 「…誰だって…何だっていいんだ…合法的に良いように使って、捌け口にできて、自分より下の存在だと思える相手だったらさ… あいつらはただ憂さ晴らしに誰かを殴りたかっただけなのさ… 孤児で庶民の僕が丁度よかったんだろ…」 「…それで大人しく殴られてやったんですか…!?どうして…」 「どうして…?知らないよ……僕が聞きたいね…“魂”がそういう色をしてるんじゃない?」 ボソボソと呟きながら彼が顔を上げる。 口から血を滴らせながら笑っているようだった。 レンシアはどう声をかけて良いかわからなくなって 床に散らばっていた彼の教科書やノートを拾い集めた。

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