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悪い夢 6

「……分かったよ…“何に使われる”か、くらいは選ぶよ… しょうもないゴミみたいな連中に恨まれるよりはあんたみたいなお人好しに恨まれた方が目覚めが良さそうだし…」 普段はにこにこしている彼は、氷のように冷たい雰囲気を纏いながらレンシアを睨み下ろしてくる。 その金色の瞳の輝きは、月夜の獣のように鋭利で エルメーザとは違った圧を放っていた。 だけど彼はすぐに、ふ、と微笑んだ。 「…僕のために怒ったこと…後悔…しないでよ?」 まるで花の咲いたような甘い声色は、その発言の真意とは真逆の響きをしているのに 後ろから刺されたような凄まじい衝撃を孕んでいる。 レンシアは呆然と彼を見上げた。 「ここで見た事…誰にも言わないでね……」 彼はそう告げると、ふらふらと廊下の奥へと消えていってしまった。 レンシアは暫く床に座り込んでいたが、落ちてしまった彼のノートや本を再び拾い集めて 服についた埃を払いながら立ち上がった。 ジョルシヒン・リウムは、レンシアと同じく孤児院出身の庶民の出でありながら魔法を授かり ジョルシヒン伯爵の支援を受けて、数ヶ月前に編入してきた生徒だった。 貴族は生まれてすぐに魔法の適性を図られるため、学園への入学も皆同じ時期で編入生というのはかなり珍しいが 庶民で更に孤児という立場上、魔法の発見が遅れるのはよくある事だ。 魔法の数値を測るための測定器なんていうものは庶民にとっては必要がないし、 そもそも高価なものなので持っている庶民は少ない。 ましてや誰がいつ死んでも気付かないような劣悪な環境の孤児院では、それが魔法がどうかも分からないまま成長していく事もあるのかもしれない。 文字の読み書きすらろくに出来ない人間が、いきなり貴族達と一緒に学ぶなんて双方にとって難しい事だ。 彼は今日だけでなく今までも、 こんな風に酷く当たられていたのだろうか。 同じ、とは彼にはとても言えない事だけれど それでもレンシアは気付けなくて申し訳なかったような気がしてしまう。 イオンは、知っているのだろうか、とふと思い出してしまう。 確か彼は同じ部屋とかで仲良くしていそうだった。 いや、きっと知らないのだろう。イオンだったら知っていればきっと全力で手助けをしているはずだ。 誰にも言わないで、と言われた事からもリウムはイオンには隠しているのかもしれない。 気になる事がまた増えてしまって、 レンシアはため息を溢しながら教室へと戻るべくとぼとぼと歩き出すのだった。

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