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大嵐 1

「…嵐だ。大嵐が来る……!」 カリカリとペンの走る音だけが響いていた静かな教室内に、隣の教室から飛び込んでくる聞き覚えのある声。 イオンが彼の声に苦笑しそうになっていると、本当に窓の外からゴロゴロと雷の音が鳴り始める。 「おおお!素晴らしい!サンイヴン・ローラ! あなたはまさしく稀代の占星術師になるでしょう!」 「占いではなく統計学です。あと俺は量子物理学者に…」 相変わらずマイペースそうなローラだったが、教室の前で腕を組んでいた守護の担当の教師はイラついた様子で舌打ちしている。 「チッ…オカルト野郎共め…」 イオンが受けている授業では現在ペーパーテストの真っ最中で、 守護の授業は大体こんな感じのガリ勉が主だった内容だった。 もちろん実践的な事もやったりはするが、実は守護という魔法は結構やれる事が広範囲で 実に魔法らしい封印や契約といった約束事や、 結界を張ったりといったファンタジーテイストなもの、 更には地球でいうところの、医療や薬学といったものや物作りなんかにも通じているらしく 守護の中でも得意分野が細分化されているらしい。 故に一年生のうちは守護の魔法に関する幅広い知識を身につけるべく、座学が中心だった。 イオンは最初は使い所がない能力だとは思ったが、もしかすると一番現実的な能力で就職には困らないのかもしれないと最近思ってしまうのだった。 「……あ、中庭に雷が落ちます。」 ローラの声がした後、ビカビカと空が発光したかと思うと凄まじい轟音が鳴り響いた。 それは校舎が揺れるようなもので、さすがに笑いを堪えて大人しく机に齧り付いていた生徒達もどよめいてしまう。 「す、す、素晴らしい…! あなたはもしや大預言者ノスティーラの生まれ変わりなのでは!!?!?」 「予言ではなく気象学です」 「うるせえんだよインチキども!!!」 「なんですと!!?インチキではありません!」 守護の担当教師はついに教室を飛び出していってしまった。 医学とスピは相容れなさそうな事はなんとなく地球でも勘付いていたが、この世界では特に犬猿の仲らしかった。

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