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2人の天使 3
“大天使の生まれ変わり”が同時に二人存在していた記録はない。
もちろん、確証のない事だから完全にない事だとは言い切れないが
皇帝の伴侶となれるのはたった一人なのだ。
より能力が優れている方が、たった一人の伴侶であり生まれ変わりだと認定される。
リウムの癒しの魔法は見る限りでは本物のように見えた。
同じ魔粒子を感じ、同じような光を放ち、同じように優しく空間を包む。
そう、レンシアの癒しの魔法と何もかも同じで
つまりはそれが本物の癒しの魔法だと疑いようもないのだ。
更に彼が魔法を使う時、まるで歌うように楽しそうに使うのだ。
それは得意な魔法を発揮する時特有のものだった。
感情に深く紐付いた魔法は、
怒りや悲しみといった爆発的なエネルギーでも瞬間的に能力が向上するが
一番安定して良いとされるものが高揚感や充足感だ。
苦手な魔法ほど使うのにエネルギーを消費し、楽しさや喜びといった感情は薄れていく為
感情に魔法が引っ張られ弱まっていくのだ。
実際レンシアは癒しの魔法を使うにはそれなりの集中力が必要なので、
高揚感などといったものを感じたことはなかった。
だけれど初めて使うというのにリウムは、
楽しい、と口に出し
それを見てフェディンは感動している様子だった。
そしてきっと何人もの癒しの魔法使いを見てきたフェディンは感じた事だろう。
彼こそが、“大天使の生まれ変わり”だ、と。
本物の“大天使の生まれ変わり”が見つかれば、きっとレンシアは失脚させられるに違いない。
それは別に構わなかった。どうせ役不足だったし
それに最初から、自分は違うと分かっていた事だったから。
レンシアはこの事をエルメーザに話すべきか、
そして自分の保護者であるヴァガ伯爵に何と伝えるべきかと迷った。
伯爵はきっと酷く怒り狂ってしまうだろう事が予想される。
下手をすれば、リウムを殺せ、と言われるかもしれない。
そんな事になるのは嫌だった。
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