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2人の天使 5

「エルメーザ…!」 花の咲いたような声が聞こえてきて、思わずレンシアはそちらに目を向けてしまった。 二階の渡り廊下にエルメーザの姿があった。 渡り廊下は反野外になっているため声が丸聞こえだし、その姿も見える。 彼は立ち止まって振り返っていて、 そしてそんな彼に駆け寄ってきたのは、リウムだった。 「どうした?」 「あのね、さっきね…」 楽しそうに話しかけるリウム。 そしてエルメーザは、見た事もないくらい穏やかに目を細めてリウムを見下ろしている。 大きな手がその栗色の髪を撫でて、その髪の持ち主は頬をバラ色に染めている。 夢でも見ているみたいだった。 現実のように見えるけど、現実とは少し違う。 そんなような。 エルメーザに微笑みかけてもらった事なんてない。 あんな風に呼び止めたら、振り返って、頭を優しく撫でてくれるなんて。 話に耳を傾けてくれたことなんて。 レンシアはよく分からないまま何故か胸の中が空っぽになっていくような感覚になっていった。 見たくないのに身体が動かない。 その光景がどんどん脳に焼き付いていく。 嫌だ。やめてほしい。 壊れてしまう。 リウムが少し背伸びをして、 エルメーザは彼に顔を近付けていく。 え?何をするんだろう。 わからない。 しらない。 見たくない。 ここにいたくない。 そう思った瞬間、視界が真っ暗に閉ざされた。 何かに目を覆われているようだ、と気付いたのは顔に何か大きくて暖かなものが触れていると分かったから。 「……見ました…?見ましたよね……?」 消えそうな声が後ろから聞こえてきて、レンシアは振り返った。 そこにはイオンの顔があって、彼は何故か泣きそうな顔でこちらを見下ろしていた。 「リチャーデルクスさん…」 レンシアは呆然と彼の顔を見上げた。 雷で無くなってしまった巨木の美しい緑を思い出す瞳。 「…男って……ほんっっっとバカよね……」 イオンはその緑色の瞳を涙で滲ませながら、吐き捨てるように呟いた。 レンシアは頭の中が混乱していて、だけど胸の中が空っぽで 自分がどういう感情を感じているのかも分からないまま、反射的に微笑んでしまった。

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