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2人の天使 6
「…どうして…あなたが泣くのですか…?」
「レンシアさんに傷付いて欲しくないんだよ…っ」
「俺が…どうして……傷付くのですか……?」
何を傷付く事があるというのだろう。
レンシアは泣くのを我慢しているように両手を握りしめているイオンを見つめた。
「…何も…わからない……」
どうして彼は、自分には関係のない事なのにそんな風に泣きそうになっているんだろう。
レンシアは小さく吐き出すように笑って、そっとベンチから立ち上がった。
「……俺……いつか空を飛んでみたかったのです」
「え…?」
「子どもの頃の夢。こうして空を見上げていたら、それを思い出してしまっていました。
…人間はどうやったって空を飛べないのに…バカみたい…ですよね…」
どんなに両手を広げたって。高い所に登ってみたって。
人間は落下して死ぬだけだ。
もしかしたら飛べるかも、そうやって蹴り出すことすら出来やしない弱虫だ。
レンシアは苦笑しながらイオンを見つめた。
「…こんな事を誰かに言ったのは初めてです…
ごめんなさい…忘れてください…」
何故今彼に、こんな事を言ったのかはわからない。
ただ、自分なんかの為に泣き出しそうな彼が、諦めてくれればいいと思った。
さっさと諦めて、こんなおかしな奴に構っている暇はないと気付いてくれさえすれば。
自分は、簡単に砕け散ってしまえたのに。
レンシアはぺこりと頭を下げて、イオンに背を向けて歩き出した。
「…っ飛べるわよ!!」
背中に、声がぶつかる。
「人間だって飛べるわ!一万円もあればジェットスターとかで簡単に雲の上に行けちゃうし!
魔法使いは箒で…っデッキブラシでだって飛ぶんだから…っ!」
何を言っているのかまるで意味不明だったが、その必死な声を受けて
レンシアは唇を噛み締めながら走り出した。
どうして涙が溢れ出しそうなのか分からない。
空っぽの胸の中が、今何で満たされているのか。
それがどんな意味があるのか、何も分からなくて
ただ、消えたくて消えたくてたまらなかった。
浮かび上がって、空にすうっと透けていって、
消えていってしまえばいいのに。
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