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魂のイロ 5

心を磨く。 他者を思い遣ること。 慈しみを持つこと。 全てに愛を注ぐこと。 どれもピンとこない。その時点で資格がないのかもしれない。 魔粒子が濁ることはない。 だけど魂は汚れていく。 レンシアは道徳の本的なものを読みながらも毎日図書室でため息を溢していた。 夏には長期の休みが入り、1ヶ月程学園は休講となる。 休講中も寮生活をしていても問題はないが、 実家に帰ったり旅行に行ったりと余暇を楽しむ者が大半だ。 レンシアはヴァガ伯爵の家と皇室から与えられた別邸、2つも帰れる家はあるがどちらにも居場所はなかった。 「ジョルシヒンのやつ庶民の癖に目立ってるよな…」 「エルメーザ様と付き合ってるって本当かな?」 同じ1年生と思しき生徒の声が耳に届いてしまう。 こんな噂なんて毎日大量に溢れているから気にしてもしょうがないのだが。 「他の十家のやつとも仲良いよな?」 「上級生と抱き合ってるの見たって奴いるぜ」 「ビッチ野郎って噂らしいね」 「金掴ませたらヤたせてくれたりして…」 いくらなんでも品性のカケラもない暴言は許容できなくて、レンシアは思わずそちらを睨んでしまった。 目の前で本も持たずに棚にもたれて喋っていた生徒数人と目が合う。 「ここは本を読み自習に励む所ですよ。低俗な雑談なら外でなさい」 レンシアが注意すると、生徒達は怯えた様子で口を閉ざしてすごすごと去っていった。 「こえー…」 「寝取られて気が立ってるんじゃね?」 去り際にまでヒソヒソと喋っているどうしようもなさもそうだが、 その口の悪さには本当に貴族なのかと疑いたくなる。 校長直々に名誉あるお言葉を受けてもリウムをよく思っていない人間は少なくないようだ。 皇室入りが約束されているレンシア自身もそれが身に沁みているため仕方がないだろう。 どんなに優秀でも愛らしくても、身分や血統で差別する人間は後を絶たない。 ヴァガ伯爵だって書類上は親子で家族だけど、 レンシアの事を所有物の一つとしか考えていない事が見て取れる。 人間にかけるような言葉ではないものをどれだけ浴びせられただろう。 思い出すと苦しくなって、レンシアはため息を溢しながら道徳の本を閉じた。 身分や血筋で何もかも決まるなんて信じたくないけど、 結局は低下層の庶民や孤児として生まれれば劣悪な環境で生きることになる。 貴族に生まれれば何もしなくたって美しいものに囲まれて当然で、逆もまた然りなのだ。 リウムだって見た目は愛らしく明るく振る舞っているけど、 きっと表に出さないだけで深くて悲しい闇を抱えていて それは自分も同じだ。 それでも彼が美しく輝いて見えるのは、元々の魂が純粋だからなのかもしれない。 だからと言ってあんな風に言われる事は許されていいわけがない。 レンシアはどこか諦めのような気持ちを抱きながら、椅子から立ち上がって図書室を後にした。

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