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真意と想念 4
「なるほどね…」
二人の説明になんとなく納得してイオンは頷いた。
学年合同と言っていたし、卒業間近の3年生は特に重要なイベントなのかもしれない。
とりあえず実家を継ぐとはいえ、それは家督であって事業ではないし
困らないほどの資産があれば別だが、大体の場合家族を食わせるための仕事は必要なのだろう。
十家であるリチャーデルクス家も、貴族としての仕事はあれど両親はそれぞれ会社を経営しているし
自分でどうにかなさい、とイオンは言われている。
というのも得意な魔法も親二人と同じとは限らないし、得意を活かす仕事をするのであれば自分自身で考えなければならない。
「将来…かぁ…」
イオンは急に未来のことが心配になって小さく呟いてしまった。
井小田もイオンと同じように表彰されるほど優れた能力を持っているわけではなかったし、
かと言って周りの大人に焦らされるほど劣等生でもなかった。
可もなく不可もないというのが一番放っておかれる存在で、かといって夢を見れるほどの度胸もなかったので
身の丈にあった進学先や就職先を選び、その末にブラック企業に流れ着いてしまったのだった。
流石に今世ではブラック企業には就職したくなかったが、親のように立派にやれるかどうかも分からないので
無難に公務員になろうかなとなんとなく思っているイオンだった。
「まあ色んな貴族に顔を売っておくことは悪い事ではない。
お前は逆に擦り寄られるだろうけどな」
「十家だからってそんなにお金持ってるわけじゃないけどね…
親が稼いでいる分は親のお金なわけだし…それ以外は家のお金だから私利私欲には使うなって言われてるよ」
親は愛してくれてはいるもののそういう所は貴族らしくきっちりとしていた。
自らの欲に溺れるなといいながら尻を揉んで叩かれていた父の姿を思い出し、イオンは苦笑する。
転生者ゆえに親、という感覚は薄かったが両親の事は尊敬してはいる。
貴族としても大人としても、親という存在としても随分と立派だと思うし、
井小田には成し得なかったものを全部持っている存在としてはなんだか遠く見えてしまうだけで。
だけどローラの言う通り、他の大人の話を聞いてみるのは悪い話ではないのかもしれない。
「なんか、一回くらいみんなで遊び行きたいよな?リウム達も誘って」
「いいなぁそれ…」
イヴィトの提案は実に心躍るものだったが、今の状況でそれが可能なのかと思ってしまう。
「制服ディズニーとかしたい人生だったからな…」
「なんだそれは」
本当はレンシアも含めたみんなで遊べたら楽しいだろうな。
でもそれは難しいだろうか。
イオンはこれだけ話していても起きないリウムを見下ろしながら、小さくため息を溢すのだった。
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