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温室の天使 1
数日も経てばリウムはすっかり元気を取り戻し、怪我も治りつつあるようだった。
暫くは包帯だらけの痛々しい姿を晒していた彼だったが痕が残るような傷もないとの事で、
一先ずは安心だろうか。
相変わらず学園内は思わしくない噂を囁く生徒達で溢れていたが、
夏休み目前になってくると次第に関心はそちらへと向いていく。
サマーバケーションを前に、恋人を作ろうと奮闘したり、旅行の計画を立てたり、家族と連絡を取り合ったりと
皆自分毎に忙しくなるのはどこの世界も共通といえるのかもしれない。
この世界にお盆という概念はないが、タイミングを合わせて一日か二日くらい親に顔を見せる以外は
普通に寮で過ごしていようかと思っていたイオンは
いまいちそう言った浮かれ夏野郎にはなりきれていなかった。
そんなこんなであっという間に最後の授業の日になってしまった。
当然各授業で大量に宿題を出されるわけだが
疎通の授業では、いつもの教室を飛び出して動物達が飼育されている飼育小屋へと連れて来られていた。
勿論飼育小屋と言ってもちょっとした動物園みたいな広さで、
公園のような野外のスペースがあり様々な動物たちが囲いの中で暮らしている。
また、ガラス張りの温室もあってそこにも様々な動物が放し飼いされていた。
疎通の授業を受けている生徒達は今日は温室に集合するよう言われたのだ。
「今期最後の疎通の授業は…幻獣生物達との対話じゃ。
対話は疎通の魔法の中でも特に高等技術のいるものだと言われておる。
モノや動植物との対話は勿論、幻獣生物と友好的な対話をすることは特に重要じゃ」
魔法がエネルギーとしてあらゆる生活を支えているらしいこの世界においては、幻獣生物や動物などの力を借りる事も多いらしい。
移動や荷物運搬の手段として馬や犬やラクダが使われることは地球でもある事だったが、
そんなような形でこの世界では人間以外の生物達に協力してもらっているらしい。
そんな生物達とコミュニケーションを交わすのが疎通の魔法使いの役割と言うことだ。
ただの通訳だけではなく信頼関係を築いて共に仕事をするような職業も多いようだ。
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