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楯 6

混乱が落ち着いてからもイオンは学園内を駆け回ってレンシアを探したが、彼の姿は見つけられなかった。 諦めて広間に戻ってきた頃にはもうすっかりパーティは終わりを迎えていた。 婚約破棄シーンなんて創作上ではあり触れているものだったが、 実際目の当たりにすると苦しくなってしまう。 皇帝ルート、リウムはこれを望んでいたのだろうか。 「…あー…最悪だった……」 立ち尽くしていたイオンの元にどこかフラフラしながらローラが現れた。 心なしか髪もいつものようにぼさっとなっているし何故か老人のように腰を曲げて歩いている。 「ローラ…どこにいたの?」 「はぁ…ちょっとな…… …何かあったのか…?」 「何かって……凄いことになってたよ…君の言った通りに…」 ローラの言っていた事は、皇帝ルートの事だったのだろう。 当の本人はきょとんとしている。 広間の反対側からイヴィトが走ってくる。 「あかんやった…見つからん…」 「そっか…」 彼も探してくれていたらしいが、結果は残念だったようだ。 「何があったんだよ…」 「それが…皇帝の弟の、ローザレック様がいらして… レンシアさんが悪さしてるんやないかって…ほらこの前の食堂の事とか、自作自演やって…」 「はぁ?」 「で、婚約破棄…するって……」 イヴィトが簡潔に説明してくれて、こういう時彼の爽やかさに救われてしまう。 しかしローラは怪訝な顔をして腕を組んだ。 「レンシアさんが…“大天使の生まれ変わり”やって嘘をついてた…みたいな事言うてた」 「うーん…まあすぐには真実には辿り着けないだろうが… 皇帝家の人間が出てきてやった事なのであれば覆らないだろうな…」 誰が言っているのか、とリウムが言っていた事を思い出す。 あんな立場のある人が言った事は事実にもなってしまう。 結局レンシアの罪は確定されなかったが、彼が罪人だと深く印象付いてしまっただろう。 「…早まっていないと良いけど……」 駆け出して行った彼の背中が凄く辛く見えて、イオンは何故か泣き出しそうになっていた。 これは、やり直しのきくゲームでもifの世界でもない。 現実に起きている事なのだ。 温室で笑っていたレンシアの顔が思い浮かぶと、ずっとあんな風に笑っていてはもらえないのだろうかと思ってしまう。 出会ってからずっと彼は辛そうだった。 これ以上ないというくらいに、 だけどこれ以上は、簡単に訪れてしまうから。

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