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ピクニックデート 1

こんな日でも空は穏やかだ。 青く澄み渡っていて、誰にでも平等で。 だけどこんなにも遠い事に、心がとても苦しくなる。 帰りたい。 帰る場所なんてないのにそんな風に感じてしまう。 こんな想いをするくらいなら、この身体を全部脱ぎ捨てて帰ってしまいたい。そんなような感覚。 それは希死念慮なのかもしれない。 自分が壊れている証拠だった。 レンシアはベッドの端に腰を下ろし、元々居た部屋より半分くらい狭いその部屋でぼうっと窓の外を眺めていた。 なんだかずっと頭がぼうっとしている。 それはここ最近ずっとそうだったけど、今はそれがより顕著だ。 部屋の様子に目を向けると、起きたばかりで布団の乱れたベッドが向かいにあって 彼の机には分厚くて難しそうな本が並んでいる。 クローゼットは開けっ放しになっており、ドアの所にジャケットがかかっていた。 ブラウンの上等そうなジャケットは酷く汚れていて、クリームやワインのような汚れが見える。 レンシアは、昨日彼に庇ってもらったようなことを思い出した。 それと同時に思い出さないようにしていた事がまざまざと蘇ってきて思わず両手で顔を覆う。 怒号や、嫌悪に満ちた視線、罵声、 首を絞め髪を掴み引き回されるような憎悪の感覚。 「…っ…」 思い出すと身体がバラバラに砕け散ってしまいそうで、なるべく奥の方に押し沈める努力をした。 いつかこうなると覚悟していた事だ。 逮捕されなかっただけマシな方である。 とは思うけど、罪人として投獄された方がまだ良かったのかもしれないとさえ思ってしまう。 自分はこれからどうしていけば良いのだろう。 何も道筋が見えなくて、目の前が真っ暗だった。 そんな真っ暗は、飛び込んできた物音で一瞬居なくなった。 顔を上げるとシャワールームからイオンが出てきた所だった。 彼はタオルで髪を拭きながら、レンシアに気付くと優しく微笑んでくれた。 「お昼ってもう食べました?」 普通に話しかけてくれる彼の優しさが、凄く胸の内側を掻き毟ってきて レンシアは膝の上にあった両手を握りしめながら俯いた。

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