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ピクニックデート 4
「…お昼食べ行きません?」
イオンはそう言って微笑みかけてくる。
レンシアは昨日から何も食べていなかったがあまり食欲がわかなかった。
それに今学園内を彷徨いたら、またパンでも投げられるかもしれない。
彼もまた巻き添えになるだろう。
「……でも、……人目が……」
「あー…そっか…うーんと、…」
イオンは頬を掻きながら、何か考えるように視線を彷徨わせている。
そして何か思いついたのかにこ、と微笑むとレンシアの膝をとんと軽く叩いた。
「よし、良いこと思いついた」
彼は立ち上がると、レンシアに片手を差し出してくる。
「行きましょ」
本当は動きたくないはずなのに、彼にそうやって言われるとなんだか。
レンシアは訳も分からないまま差し出された手におずおずと触れた。
イオンに手を引かれるまま、寮から学園へと向かう。
道中もイオンはずっとどうでもいい話をしてくれた。
パーティに制服で参加しようとしたこと、
友達が色気だってて先を越されたような気持ちになったこと、
イオンは自分の失敗談や恥ずかしかった話を面白おかしく話していて、
強い人なんだな、とレンシアにとって彼が眩しく見えてしまうのだ。
その背中をぼんやりと眺めながら、気が付くと食堂の前まで来ていた。
「ちょっと待っててください」
イオンはそう言って手を離すと一人で食堂へといってしまった。
食事の時間にしては微妙な時間だったが、授業もないし食堂は溜まり場になっているようで
学園に残っている生徒達で結構賑わっているようだ。
中に入れば噂話の恰好の餌食だろう。
レンシアが柱の影に隠れるようにして立っていると、
イオンが手に籠のような物を持って戻ってきた。
「お待たせしました、行きましょー」
彼はそう言いながら再び手を差し出してくれる。
レンシアは呆然と彼の掌を見下ろした。
なんでこんな風に当たり前のように手を差し出してくれるのだろう、と。
「あ…い、嫌だったよね、手…触られるのとか…」
イオンは苦笑しながらも手を引っ込めようとするので、レンシアはその手を両手で掴んだ。
そしてぎゅうっと握り締めてしまう。
「レンシアさん…?」
自分が何故こんなに必死なのかも、何故こんな事をしているのかもわからなかった。
ただ、その手がどこかに行ってしまうといよいよ何にもなくなってしまう気がして。
イオンは何も言わずに歩き出し、レンシアは彼の手を掴んだまま引っ張られていった。
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