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ピクニックデート 8

「…い…良いのです、もう…生きていたって……」 「そんなこと言わないで」 イオンは泣きそうに顔を歪めて、レンシアの腕を掴んだまま縋るように頭を下げてくる。 オウムは鳴き声を上げながら彼の頭の上から飛び立ってしまった。 「言わないでよ…っ…」 ぎゅう、と腕を掴まれる。 掴まれた所が彼の体温で暖かく染まっていって、全身に広がっていくみたいだった。 レンシアは噴水の水面に映る自分を見下ろした。 泣き腫らした目に、血色が悪く、髪も肌もガサガサだ。 大きなフードを被って顔を隠そうとして、まるで犯罪者だった。 そんな姿に苦笑しながらも、レンシアは首を横に振った。 「ごめんなさい…あなたを傷付けようと思って言ったわけではないのです… 俺はすごく…醜くて穢れた人間です… 本当は魂が濁った邪悪な存在なのかもしれません…」 「違う…」 「…本当は死ぬのは怖いですよ…… …“その時”がくれば…きっと無様に助けてと泣き叫んで逃げ惑うでしょう…」 「そんなの…当たり前じゃん…、誰だってそうなるよ…」 「…でも俺は…なんのために生きればいいのか分からなくなってしまった… 皇帝のために…国のために、もう何もできない…」 イオンは項垂れたまま首を横に振った。 「もう…いいよ、レンシアさん…… ここでは誰も見てない…俺は誰にも言わない…言わないから…」 彼は泣いているような声で、レンシアの腕を引き寄せて顔をあげてくる。 「本当のことをいって」 きらきらと、涙に濡れて光を反射させる緑色の瞳に見つめられて レンシアはまた動けなくなってしまった。 「ほんとう……?」 「だから、生まれ変わりだとか、魔法使いだとか、どうでもいいんだって… レンシアさんが、どうしたいのかを言って欲しい」 「どうしたいのか…なんて…」 「なんでも良いじゃん、立派な事なんてできなくたって 誰のためにもならなくたって良いんだよ くだらない事でもいい…しょうもない事でもいい… なんだって、生きる理由になるなら全部価値があることだよ…!」 イオンの瞳からは涙が溢れ出し、だらだらと頬を伝っていく。 「俺は、友達が欲しかったんだ…!」 「え……?」 「なん、なんでも話せるような、…俺のこと笑わずに受け入れてくれる、 そんな友達とくだらない事で笑い合えるようなことが出来たらって思ってた… そう、…ピクニックデートもしたかったさ…っ! お、男の人と…手を繋いでみたかったし… チューだって、い、一回くらいはしてみたい…し…」 彼はそう言いながらも段々顔を赤らめていって、そわそわとレンシアから手を離した。 そして鼻を啜ると乱雑に涙を拭っている。

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