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ピクニックデート 9
「そんなことのために生きるのはくだらないと思われるかもしれない……
でも、いいんだ…死ぬ時に嫌というほど後悔するより、生きて笑われた方がいい…」
イオンはそう言って微笑んだ。
なんて強くて、眩しい、人。
レンシアは蓋をしていた感情が溢れ出してくるみたいに胸の中がいっぱいになっていくのを感じた。
罵られ笑われ、指をさされて生きるなら死んだ方がいいと思ってしまった自分が恥ずかしくなるくらい。
彼は、ちゃんと、命を大事にしている人だ、と思ったら。
その心に、触れたら。
「……っ…」
レンシアは涙が出てきそうになったのを察して反射的に噴水の水の中に頭を突っ込んだ。
「ぇええ!?レンシアさん!?!」
驚いたような声が聞こえてきたが、レンシアは呼吸を我慢しながら自分を反省させるように水の中に頭を沈める。
すると身体を掴まれて無理矢理引き摺り出されてしまった。
『キデモクルッタカー!』
「早まらないで!!?!???」
イオンは声をひっくり返らせながら叫んでいる。
頭からぼたぼたと水を滴らせながらレンシアは、はぁー…、と息を吐き出して再び水に顔を突っ込もうと藻搔いたが
猫のように抱え上げられて噴水から引き剥がされてしまい、結局2人で地面に崩れ落ちてしまった。
「バカバカ!なんでそんなことするのよっ!!」
イオンは水浸しのレンシアの肩を掴んでくるとだらだらと泣きながら怒ってくる。
「泣いてしまいそうだったので…」
「泣くなら地上で泣きなさいよ!!?」
「……いいんですか…?」
勝手に涙が出てくるから、頭を冷やしたかったのに。
怒り狂ってるイオンの顔を見ていると、やっぱりじわじわと涙が溢れてきてしまう。
「…泣いたら…、うるさくなって…しまいますよ…っ……」
「何言ってるんすか……気にしないよそんなの…」
『キニシネーヨ!』
「…っ……はは……」
レンシアは小さく笑いながらも、もう限界が来ていて
みるみるうちに視界が滲んでいって、口から何かが吐き出されそうだった。
「…う…、っ…ぅう…ううう…っ」
ぼたぼたと大粒の涙が溢れていく。
そして遂に大声をあげて泣いてしまった。
胸が張り裂けそうなくらい、様々な感情が押し出されていって
温室中に響き渡るような声で、涙と鼻水を垂らしながら子どもみたいに泣きじゃくった。
それは、今まで蓋をして押さえつけていたものが、遂に決壊してしまったみたいだった。
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