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羊たちと 1
自分の為に、誰かが何かをしてくれることなんて今までにほとんど無かった。
自分の為に怒ってくれた事も、泣いてくれた事も、
何か行動を起こしてくれた事も。何一つないように思う。
だから、人間は結局、自分自身のためにしか動けないと思っていた。
助け合いだとか、思いやりだとか、道徳の本にはたくさん書いてあるけど
そんなのは表面上にしか存在しない表紙みたいなもので
その表紙に忠実なものなど実際には存在しないのかもしれない。
そんな風に穿った見方をしていたのだ。
彼に出会うまでは。
学園内の生徒はほとんど学園からいなくなっていて、図書室や食堂でたまに数人見かける程度でがらんとしていた。
イオンは最近起業をしたらしく、毎日色んなところを駆け回って遅くまで帰ってこない事も多かった。
それは、レンシアを助けるため、なのだ。
それを思うと何かしたいような気がしてそわそわするのだが、出来る事が何もなくて
やっぱり勉強をして気を紛らわしている他なくて
レンシアは早々に“夏休みの宿題“のほとんどを終わらせてしまっていた。
暇を持て余したレンシアは、最近飼育小屋を訪れるのが日課になっていた。
用務員に頼んで幻獣生物の世話なんかを手伝わせて貰ったり、温室で本を読んだり、色んな動物や存在と話しているだけで
とても心穏やかに時間が過ぎて行ってくれるのだ。
自分の為に頑張っているであろうイオンを差し置いて、
こんな事をしていても良いのかと罪悪感が沸き起こってくるものの
鬱々として凹んでいけばまた性格の悪い人間になっていくから
あんまり感情が動かないような生活を送るように心がけているのだった。
「……はぁ…」
野外の囲いの中にいる幻獣生物達の餌やりが終わると、じんわりと額には汗が滲んでいた。
それは心地の良い汗だったし、
生物達のもぐもぐタイムは見ていて可愛らしくてほっこりしてしまう。
レンシアは、金色の毛に覆われた幻獣生物が暮らす囲いの中でぼうっと空を見上げた。
青く澄んだ空はずっと遠くまで広がっている。
ぼけっとしていると、足に何かがぶつかってきたので見下ろすと
メェ、と短く鳴きながら幻獣生物がこちらを見上げている。
「ふふ、どうしたの?」
金色の毛はもこもこしていて、まるで金色の雲から細い脚が飛び出ているみたいだった。
頭にはツノがあるけど、もこもこに目がいってしまってあまり怖くない。
むしろ可愛いと思えてしまう。
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