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羊たちと 2

「みんなと一緒には食べないの?」 囲いの中には群れで暮らしているはずだが、他の生物はちょっと離れた所に固まっているのに 一匹だけレンシアの足元で鳴いている。 レンシアはしゃがみ込んでその身体を撫でてあげた。 「喧嘩しちゃったの?」 ンー、と鳴いている生物からは不貞腐れているような、それでもどこか寂しいような、後悔のような感覚が伝わってくる。 その感覚はあまり良い感覚ではないはずなのに、何故か目の前の生物が愛しく思えてしまって レンシアはその小さな頭を撫でながら微笑みかけた。 「勇気を出して、ごめんね、って言ってごらん。 きっと許してくれますよ。 だって、みんな優しい良い子でしょう?」 子どもに諭すように優しく話しかけると、生物は暫く前足で土を蹴っていたが やがて群れの方にトコトコと歩いて行った。 その背中を見送りながら、やっぱり誰だって一人は寂しいよね、と思ってしまう。 レンシアもずっと孤独を感じていた。 周りに誰かいても、こんな風にただ囲われた同じ場所にいるだけで 実際は一人でポツンと端っこに居ただけだ。 隣に座っていても話したりしないし、話しかけもしなかった。 でもそれは自分で選んでそうしていたことだった。 本や勉強の世界に自分をわざと隔離して、自分の存在をなるべく認知させないようにしていたのだ。 だけど。 「……ふふ」 レンシアは、疎通の授業で隣になった生徒がペンを落としたことを思い出した。 わざとらしく、落としちゃった、って呟きながら拾っていた彼。 彼のノートの端っこには落書きがあった。 「…イオンさん……」 あの日から、彼はずっと助けてくれていた。 いつだって危険を顧みず、前に出て守ってくれたし 笑顔で話しかけてくれて、友達だ、と言ってくれて。 今だって自分の為に毎日遅くまで駆け回っている。 そんな存在に、どうやって恩返しすれば良いのだろう、とレンシアは悩んでしまう。 彼は、笑っていて欲しいと言っていたけど。 「笑う……かぁ…」 レンシアはあまり得意だと思っていなかった。 もちろん愛想良くしろとは叩き込まれてきたけど、 大声をあげたり手を叩いたり歯を見せて笑うなんていうのは下品だからしてはならないと言われてきたのだ。

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