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金羊の糸 3

「毛?」 「え、ええっと…さっき…毛を刈るのを手伝って…あの子達の…」 「ああ、なるほど」 彼はそう言って毛をちょっと高く持ち上げて眺めている。 緑色の瞳を輝かせて、彼は微笑んだ。 「なんか、レンシアさんの髪の毛に似てて綺麗ですね。 キラキラ金色に光ってて」 息を吸うように褒めてくれるイオンは、きっと誰に対しても。 毎度毎度そう言い聞かせているけど、勝手に顔が熱くなって視界が滲んでいく。 「あ、そうそう。サロンでお菓子貰ってきたんで、お茶にしません? 夕飯前だけど…まあ、夏休みだしこれくらいの悪い事は許されるでしょ」 それでわざわざ探してくれていたのだろうか。 レンシアは、こく、と頷くことしかできなかった。 胸の中が、熱くて焼け焦げてしまいそうなのに、溶け出して溺れてしまいそうなのに、 苦しいのに、それは全然不快ではなくて。 イオンは当たり前のように片手を差し出してくれた。 それが嬉しくて、酷く幸せなのに。 「レンシアさん甘いもの大丈夫ですか?」 「…ええ」 「よかったー、なんかよく分かんないけど美味しそうでしたよ。 サロンの主催の人がお土産にくれて…」 レンシアの手を引いて歩きながら、イオンはいつも通りに話始める。 背中を追いかけるように、だけど彼は歩幅を合わせてくれるから 必死に足を動かす必要もなくて。 風に揺れる明るい茶色の髪に触れたいと思ってしまう。 ああ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。 絶対に、こんな事思ってはいけないのに。 “大天使の生まれ変わり” なんていう証明は実は誰にもできない事だ。 だけどこんなに欲深くって烏滸がましい人間は、きっとそうじゃないのだろう。 命があるだけで充分なはずが、穏やかな時を求めて、その上に安全な寝床や環境を求め、どんどん要求は増えていって いい加減にしなければと思うくらい。 側に居たいとか、触って欲しいとか、ましてや特別になりたいなどと そんな我儘な願望を自分が抱いているなんて思わなかった。 それでもきっと、彼は良いと言ってくれるだろう。 どんなものだってまるで全部受け入れようとする人だから。 だからこの気持ちはまた押し込んでおかないといけない。

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