188 / 513
金羊の糸 3
「毛?」
「え、ええっと…さっき…毛を刈るのを手伝って…あの子達の…」
「ああ、なるほど」
彼はそう言って毛をちょっと高く持ち上げて眺めている。
緑色の瞳を輝かせて、彼は微笑んだ。
「なんか、レンシアさんの髪の毛に似てて綺麗ですね。
キラキラ金色に光ってて」
息を吸うように褒めてくれるイオンは、きっと誰に対しても。
毎度毎度そう言い聞かせているけど、勝手に顔が熱くなって視界が滲んでいく。
「あ、そうそう。サロンでお菓子貰ってきたんで、お茶にしません?
夕飯前だけど…まあ、夏休みだしこれくらいの悪い事は許されるでしょ」
それでわざわざ探してくれていたのだろうか。
レンシアは、こく、と頷くことしかできなかった。
胸の中が、熱くて焼け焦げてしまいそうなのに、溶け出して溺れてしまいそうなのに、
苦しいのに、それは全然不快ではなくて。
イオンは当たり前のように片手を差し出してくれた。
それが嬉しくて、酷く幸せなのに。
「レンシアさん甘いもの大丈夫ですか?」
「…ええ」
「よかったー、なんかよく分かんないけど美味しそうでしたよ。
サロンの主催の人がお土産にくれて…」
レンシアの手を引いて歩きながら、イオンはいつも通りに話始める。
背中を追いかけるように、だけど彼は歩幅を合わせてくれるから
必死に足を動かす必要もなくて。
風に揺れる明るい茶色の髪に触れたいと思ってしまう。
ああ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
絶対に、こんな事思ってはいけないのに。
“大天使の生まれ変わり”
なんていう証明は実は誰にもできない事だ。
だけどこんなに欲深くって烏滸がましい人間は、きっとそうじゃないのだろう。
命があるだけで充分なはずが、穏やかな時を求めて、その上に安全な寝床や環境を求め、どんどん要求は増えていって
いい加減にしなければと思うくらい。
側に居たいとか、触って欲しいとか、ましてや特別になりたいなどと
そんな我儘な願望を自分が抱いているなんて思わなかった。
それでもきっと、彼は良いと言ってくれるだろう。
どんなものだってまるで全部受け入れようとする人だから。
だからこの気持ちはまた押し込んでおかないといけない。
ともだちにシェアしよう!

