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金羊の糸 4

レンシアは本に書いてあった通りに金羊の毛を紡いで糸を作った。 どんなデザインにしようかと考えるけど全然思い付かないから、 レンシアはノートに思いつくままに落書きをし続けていた。 左手の薬指には、まだ指輪の痕が少し残っていて こんな自分が、とやっぱり卑屈に思ってしまうけど。 でも、自分も出来そうなことをとにかくやってみようと思ったのだ。 なんでもいいから手や足を動かして、思いついた事をやってみようと。 それがうまくいくかどうかとか、何になるかなんて後で考えればいい。 今までは、ちゃんと考えるよう口酸っぱく言われていたけど もう失うものなんて無いのだし、と思うと気が楽になる。 「…糸の量的にあんまり複雑なのは難しいかなぁ…?」 色々絵を描いてみるもののどれもピンとこなくて、うーん、と首を傾ける。 そしてイオンのことを頭の中に思い浮かべた。 今朝も、行ってきます!と言ってバタバタ出かけて行ってしまった。 でも、昨日は夕飯の前に一緒にお菓子を食べてお茶を飲んだ。 彼はサロンで起きたことなどを話してくれて、自分も金色の羊達の毛刈りの事を話したりした。 お菓子を食べながら、なんでもない他愛のない会話をして そんな穏やかな時間が、すごくすごく幸せに感じた。 「……ふふ」 レンシアは思い出すとつい口元が緩んでしまって、身体の内側が暖かくなっていくような感覚を覚える。 彼のしてくれている事は凄く嬉しいしありがたいけど、あんまり無理はしないでほしいような心配さもあった。

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