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水族館に行こう! 5

「話せて嬉しいんでしょうね…」 触らないでくださいという看板があるのに、生物は自分から頭を押し付けるようにレンシアの掌に擦り寄っている。 猫みたいにゴロゴロと喉を鳴らしているし。 彼がディズニープリンセスもしくはムツゴロウ体質なのは知っていたが、巨大な生物をも手懐けられるらしい。 だけどレンシアは少し浮かない顔をして、掌を差し出したまま生物に好きにさせている。 「…狭い柵や囲いの中にいても…この子達はすごく楽しそうに生きている… でも…俺は時々この世界が窮屈に思うのです…」 散々レンシアの掌に擦り寄っていたギリビーロは、満足したのか仲間の元へと戻っていった。 半野外の囲いは、半分がプールになっていて半分は陸になっている。 仲間のギリビーロ達は陸の部分で固まって日向ぼっこをしているようだ。 「贅沢…ですよね。 孤児院にいた頃は、このタイル一枚分くらいのスペースの中に収まってどうにか過ごしていて… 今はもっと広い場所にいて…それも、自分が努力して得たのではなく与えられたものばかりだというのに」 レンシアは確かにいつも自分をどこかに縛り付けているようにイオンには見えていた。 机に、教科書に、次期皇帝の婚約者に、“大天使の生まれ変わり”、に…。 「レンシアさんは…もっと心が自由になりたいのかもしれないね」 「……心…、ですか?」 「誰かの目とか、立場とか身分とか気にせずに 思うままに生きるというか、振る舞うというか…」 「…変ですよね。今はもう、俺のことなんて誰も気にしないはずなのに… どうなったって、例え居なくなったって…気にも留められないはずなのに…」 「うーん…なんていうか、 レンシアさんが…レンシアさんの事を一番見張っているんじゃないかな…」 「え…?」 「自分で自分を、縛り付けているというか…自分の目が一番気になっているのかな」 話ながらもイオンは、井小田もそうだったのかもしれないと思えてきてしまった。 普通じゃない自分はダメだとか、自分は孤独でなければいけないとか。 そうやって縛り付けていたのかもしれない。 同じような状況でももっと自由に生きている人はいっぱいいるはずなのに。 そうなってはいけないと、 不幸であるべきだと誰よりも言っていたのは 紛れもなく自分自身だった。 「自分に素直になるって、出来てるつもりでも全然出来てなかったりするよね… 誰かが怒ってるわけでもないのに、率先してまず自分が自分を叱りつけて…動けなくなってしまう やってみたら意外と他の人は受け入れてくれたりするのにね」 レンシアは紫色の瞳を輝かせながらこちらを見ている。

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