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水族館に行こう! 6
彼に触れたいなどと思う自分を縛っているのも、自分、なのだろうか。
嫌われたくないという臆病な自分が、やってもいないのに保身に動いている。
イオンは苦笑しながらもそっと彼に手を伸ばして、その頭に軽く触れた。
「レンシアさんが、レンシアさんのことを自由にしてあげられたらいいね」
彼の小さな頭の中では、今自分はどう思われているのだろう。
どう思われていてもそれを支配することも改変することも出来ない。
他人のことは変えられない、変えられるのはいつでも自分の事だけで
怯え竦んで、邪推して立ち回って、孤独になっていく事を自ら選んで。それを世界の所為にした。
イオンは、今世は少しでも自分の所為にする為に生きようと決めていたから。
例えこの手を振り解かれても、手を伸ばさなかった臆病な自分を選ばずにいられた事を誇りに思いたかった。
「…そんな事を言われたのは初めてです…
確かに俺は…自分の事がすごく嫌いで…自分で自分を縛って…」
彼から手を離そうとすると、レンシアはイオンの腕を掴んでそのままの状態にさせてくる。
「不思議ですね。自分で思いついたらそんな烏滸がましい事、怖くてできないのに…
あなたに言われたら、そうしてみたいと思ってしまう」
レンシアは、さっきギリビーロがしていたみたいに
イオンの手の甲に自分の頬を押し付けて、微笑んでくれた。
自分の稚拙な言葉が、彼にどう伝わったのかは分からないけど
もしもレンシアが自分を縛る何かから解放されて、もう少しだけ自分に優しくできるようになったら、いいな、とイオンは思えていた。
井小田みたいに自分を蔑ろにして、
世界の荒波に揉まれても助け出そうとすらせずに、もっと深い深い所に追い込んでしまって。
そうなってしまう前に。
「あー!いたいた!」
「お前達…居ないと思ったらこんな所でいちゃついていたのか…」
ローラとイヴィトがやってきて、二人は慌てて離れる。
「もお!離れる時は一言声かけてや!?すごい探したんやから」
「す…すみません…」
「いいけどさぁ、心配するやろ!?」
「はい…ごめんなさい……」
そして、親のように怒るイヴィトに平謝りするのだった。
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