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呼ぶ声 1
初めて訪れた水族館は、不思議だった。
たくさんの人、たくさんの生き物たち。
様々な気配が至る所に充満しているけど、あまり煩くは感じない。
水槽に満たされている水が穏やかに、全ての存在を包んでいるみたい。
檻の中に居るのに生き物達は別に嘆いていない。
可哀想だと思うのは人間の勝手な感情で、彼らはどんな環境にいてもただただ真っ直ぐにそこに在るだけで
ただただ、自分自身で在ろうとしているだけで。
それは凄く尊くて羨ましくて、そうはなれない自分が恥ずかしくも感じる。
だけど、自分で自分を自由にさせてあげられたらいい、と彼は言ってくれた。
一通り館内を見終わった一行は、野外のスペースを散策していた。
公園のように、池や森のような場所が作られていて
水陸両用の生物や水辺に棲む大きな生物が過ごしているようだった。
「水棲ドラゴン向こうみたいやなー」
園内のマップを見ながらイヴィトが率先して前を歩いてくれる。
レンシアは彼らについていきながらもつい辺りをきょろきょろとしてしまう。
孤児院と、屋敷と、学園くらいしかほとんど行った事がないレンシアにとっては
なんだか本の世界に入り込んでしまったように感じてしまうのだ。
「ドラゴンって確かかなり珍しいんだよね?」
「そうだな。他の生物と群れずに独自のコミュニティで過ごしているのが一般的だ」
「上級の疎通の魔法でもなかなか言葉が通じんらしいなぁ…
モルフェガレ家みたいに、幼少の頃からずっと一緒に居るとかやないとなかなか信頼関係は築けんらしい」
三人はレンシアより少し前を歩きながら話している。
目移りしてまた逸れてしまわないように、とレンシアはちょっと小走りになって彼らに近付いた。
すると、イオンが振り返ってくれる。
「レンシアさん、大丈夫?」
「…ええ、すみません。なんか…あちこち気になってしまって」
「ゆっくり見たいのあったら言いなね」
彼はそう言いながら隣に並んで歩いてくれた。
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