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謎の石 1

美しい姿を眺めていたレンシアは、何も見えなくなった空から自分の掌へと視線を向ける。 黒い石は静かに、だけど確かな意思を持ってそこにいた。 「…愛おしい…か…」 自分で言ったはずの言葉なのに、変な感覚だった。 まだ何か分かりきっていないような。 でも頭では全然理解出来ていないのに。 人間に対して愛おしい、なんて感覚。 自分の中にあるのかどうかも疑わしいのに。 「れ、レンシアさん……!」 ハッとなり顔を上げると、そこは檻の前だった。 振り返ると人集りを掻き分けてイオン達が走ってくる。 「早く、逃げましょう」 「え?」 「今のうちだ急げ!」 イオンはレンシアの片手を取って走り出した。 訳もわからず一緒に走り出しながら、レンシアは檻を振り返った。 そこにはドラゴンの姿はなく、戸惑う人々達が檻の周りで騒いでいるようだった。 四人は暫く走って、人が少ない場所までやってくるとようやく走るスピードを緩めた。 「はぁー…」 「疲れた……」 イオンは腰を曲げていてローラは座り込んでいる。 「大丈夫?レンシー…」 イヴィトは呼吸一つ乱れておらず心配そうに気遣ってくれて、レンシアも弾んだ呼吸を整えながらも頷いた。 「すみません…一体何が…?」 「レンシアさんが急に歩き出したと思ったら消えちゃって…」 「そう!で、ドラゴンが脱走したんだ。 脱走というか、突然消えたんだが。 そしたら檻の前にレンしぃがいるのを見つけたってわけだ」 イオンとローラの証言に、レンシアは首を傾けてしまう。 「お前…何かやったのか…?」 「わ…わかりません…気付いたら目の前にドラゴンがいたんです… それで話をして…」 「ドラゴンと話したん!?」 「おそらく……、でも、夢だったのかもしれません…」 ドラゴンの話は半分くらい意味がわからなかったし、檻にはどう考えても人が入れる隙間はなかったように思う。 だけどレンシアの手の中にはあの石が握らされていた。 「とりあえず…どっか座らない?」 「賛成ー!喉乾いてもうたー」 「あっつ…」 イオン達は歩き出して、レンシアはとりあえず石をハンカチに包んでポケットの中に突っ込み彼らを追いかけた。

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