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選べないこと 3

ベッドに横たわったレンシアは片腕で顔を塞ぐようにしている。 「…すみません……ちょっと混乱してて…」 頭のいい彼は人よりも思考の回数が多いのかもしれない。 立場も置かれている状況も複雑で、心が追い付いていないのだろう。 「レンシアさんはやっぱりちゃんと休まないとダメですよ。 疲れてる時はまずはたくさん寝ましょ…」 以前から無理をしていそうな彼は、夏休みであってもやっぱり夜更かしの常習犯のようだし。 イオンは手の中にある石を見下ろした。 不思議な石は、やっぱり生きているように感じてしまう。 床に落ちていた彼のハンカチを拾い上げて、一応それに包んでからレンシアの机の上に置いておいた。 「……イオンさん…どうしてずっと…俺のこと信じてくれるのですか…?」 レンシアは腕で顔を塞いだままぼそぼそと呟いている。 「どうして…かぁ…理由なんているのかな」 イオンは彼のベッドに腰掛けて、その頭を撫でてあげた。 いつも綺麗に切り揃えられていた彼の髪は最近伸ばしっぱなしになっている。 「信じたいから、勝手に信じているだけだよ」 レンシアは腕を退けてこちらを見てくれたけど、紫色の瞳は少し滲んでいる。 何も落ち込む必要も気を遣う必要もないのに、と思ってしまうけど 彼のこれまで過ごしてきた状況を思うとあまり言えなくて。 イオンは彼に微笑みを向けながら頭を撫でる事しか出来なかった。 あなたを守りたいとか。見ていたいとか、側にいたいとか。 言っていいものかどうなのか分からないから。 「……おかしな人ですね…あなたは…」 レンシアは目を細めながら呟くと、ベッドから起き上がった。 顔が近付くと少々ドキドキしてしまうけど、彼は困ったように微笑んだ。 「ありがとう…イオンさん…、俺の言葉に全部…ちゃんと向き合ってくれて……」 「え…?」 ベッドから降りて部屋の中を移動するレンシアをイオンは呆然と見つめてしまう。 「……シャワー、浴びてきますね」 そう言ってレンシアはシャワールームへ消えて行ってしまった。

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