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選べないこと 5
「これ以上レンシアさんを追い詰めるわけにはいかないよ…
あの人はただでさえいっぱいいっぱいなんだから…」
答えの分からないような事でキャパオーバーをしかけている彼に、自分の事まで考えて欲しいなんて言えるわけがない。
ふーん、とローラは何故か面白くなさそうに口を尖らせている。
「…イオン、新聞にはこう書いてある。
レンしぃが“大天使の生まれ変わり”というのは誤りで、リウムこそが“本物”だったと…」
急に新聞の話に戻ったローラに、イオンは再び新聞に目を向ける。
3人は顔写真付きで載っていて、つくづく有名人なのだと実感せざるを得ない。
「もちろん生まれ変わりの証明なんて出来ない…
だからこそ、癒しの魔法の値が強い人間には様々な審査やテストが行われた後に次期皇帝の婚約者として認定されるはずだ。
だがあまりにも早すぎる…」
「まあ…まだ1ヶ月くらいしか経ってないもんね…」
イオンは主人公が故のご都合主義なんじゃないかと気楽に構えていたが、ローラはそんな能天気さを叱咤するように新聞をぺしぺしと叩いてくる。
「いいか?リウムが引き起こす“出来事”は恐らくこんなものではないぞ」
「え…?そうなの?てっきりあの…パーティの日の事なのかと思ってたけど…」
「あんなのは序章でしかない…エルたんが誰と結婚しようが正直どうでもいい事だからな」
「……リウムは…まだなんかやらかすって事…?」
「分からんが…、“何か”はまだ起こるだろうな」
ローラの言い方は何にでも当てはまりそうな事だったが、この部屋を出て行く時のリウムの雰囲気にはイオンも引っかかるものを感じていた為無碍には出来なかった。
「“後悔のない選択”をしろよ、イオン。選び直しはきかないんだからな」
「…う…うん…」
意味深なことを言いながら、ローラは新聞を奪ってまた上の階に戻って行ってしまった。
どうして俺にそんなことを言うのだろう。
イオンはつい呆然となってしまった。
確かにリウムともレンシアとも、エルメーザとも関わりのある存在になってしまってはいるけど、外野は外野で
結局はゲームの世界でいうところの名のあるモブ程度なのではと思えて仕方がないのだけれど。
でも、後悔のない選択、はなんとなく心に刺さる言葉だった。
自分の選択は、多分世界にはなんの影響も与えないだろう。
だけれど自分の人生には、とても大きく関わってくるものだから。
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