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踏み台 1

自分には何が出来るのだろう。 彼に何が返せるのだろう。 レンシアは、ふとそんな事を考えながら過ごしていた。 あんな事があったのに、まだこの学園にいられている事が、 平然とそれを受け取っていることが不思議でたまらない。 「見ろよあれ…」 「婚約破棄された嘘つきだぜ…」 囁かれている言葉はまるで存在自体を非難するものなのに。 自分には何も出来なくて、 言われているように消えてしまった方がいい存在のはず。 立って歩いているだけで恥を晒していて。 それなのに、この沸き起こってくる力は、一体なんなのだろう。 レンシアは何故だか何を言われても平気な自分を不思議に思っていた。 そして向こうから、 仲の良さそうに並んで歩いているエルメーザとリウムがやって来ても 心臓が変に騒ぐこともない自分にも。 「…あ、先輩……」 廊下でバッタリと二人に会ってしまったが、エルメーザはどこか罰が悪そうに目を逸らした。 あのパーティの日以来彼とは口をきいていなかったし、リウムも勿論そうだ。 「…こんにちは」 レンシアが軽く頭を下げるとリウムは眉を下げて、お久しぶりです…、と呟いた。 リウムは相変わらず金色の瞳を甘く輝かせているけど、少し彼を纏う雰囲気が以前と違って見えた。 好きな人の横を歩いているにしては、なんだか影が薄く見えて。 対面するとその異様な雰囲気に、レンシアは思わず眉根を寄せてしまう。 「………ジョルシヒンさん、ちゃんと眠れていますか?」 「…うぇ……?う…、うん……」 レンシアが顔を近付けてしまうと、リウムは驚いたように眼を見開く。 その目の下には若干クマができている。

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