228 / 513

踏み台 2

その様子はレンシアにも身に覚えがあるようなことだった。 当時は何も感じられなかったけど、もしかするとイオンには自分もこんな風に酷く見えていたのだろうかと思い至った。 だからあんな風に必死に心配してくれたのだろうか、と。 それなのにあの時はもっと努力しなければとか、本気で思ってしまっていて、思い返すとなんだかゾッとしてしまうのだ。 どう声をかけたものかとレンシアがつい考えてしまっていると、 彼との間にエルメーザが割って入ってきて引き剥がされてしまった。 「リウムに圧をかけるな…」 ボソボソと呟く彼に、一瞬ビクついてしまったが もう何も関係がないんだと思い出すと、レンシアは胸を張って彼を睨んだ。 「圧ですって?あなた以上に圧をかけられる存在がいるとは思えませんけど」 「…な…」 「ごきげんよう」 レンシアははっきりとそう告げると二人の横を通り過ぎて歩き出した。 ただの孤児が、次期皇帝の婚約者になる事がどれだけのプレッシャーになることか。 この学園に居るだけでも場違いで死にそうになるというのに。 昼休みに苦学生の話を聞いていた所為で余計に色々思ってしまって、レンシアは珍しくイライラし始めていた。 思えばエルメーザから大事にされたと感じたことなんて一度もなかった。 ただの友達のローラやイヴィトですら寄り添ってくれるというのに。 イオンなんて、一緒に泣いてくれて、 どうにか助けようとずっと駆け回ってくれて。 いつだって気にかけてくれて……。 「………婚約破棄されて…よかったのでは…………」 禁断の事実に気付いてしまって、レンシアは自分で言いながらも少し恐ろしくなってしまった。 だけど一度そう思ってしまうともうそうとしか思えて仕方がない。 イライラしながら腕を組み、あんな男に必死だった自分がバカらしくも可哀想に思えてくるのだ。 もう考えるのはやめよう。 どうせもう関係ないのだし。 レンシアは自分にそう言い聞かせながらも大股に歩いて、疎通の教室へと向かった。

ともだちにシェアしよう!