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古典刺繍 1
夏休みも終わり、学園が再開して暫く経った。
イオンは会社と学業をどうにか両立させようと寝不足にもなっていたが、
イヴィトやヴェネッタも少し手伝いをしてくれるようになり
最近はどうにか上手く回っている。
それよりもイオンが目を離せないのはレンシアの事だった。
学園が再開した暁には一体どれだけの修羅場が訪れるのかと危惧をしていたのだが、
レンシアは何故か機嫌が良さそうに
寧ろ今までよりも溌剌と過ごしていて逆に怖いくらいだった。
彼は今も尚婚約破棄の件で死ぬほど陰口を叩かれているのだが、それを跳ね除けるような眩いオーラを放っており、
レンシアが現れると全員口を閉じて呆然と彼を見てしまう様は、エルメーザの後ろを歩いていた頃よりも数段威力が増しているようだ。
「……んへ…ふへへ……」
イオンは隙があればレンシアから貰ったハンカチを眺めてニチャついていた。
誰かにプレゼントを貰ったことなんてほとんど初めてだったし、
好きな子から何か貰うなんて記憶上は存在していない。
そんなイベントがあったら絶対に走馬灯で流れているはずだ。
白いハンカチには金色の糸で刺繍が施してあり、それはなんとも形容し難い模様だったが綺麗だった。
魔法陣、のようにも見える不思議な模様でこの世界のハイブランドのマークとかなのかなと思ってしまうが詳細は不明だ。
「ど、どしたん…?崩壊してるやん…顔面が…」
授業が始まる前の教室で待機していたイオンの隣へイヴィトがやってきて
座る前からイオンの不穏な笑みに怪訝な顔をしている。
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