233 / 513

変容 1

活き活きと活動し始めているレンシアと、浮かれ頭のイオンの一方で、 あんなに主人公オーラを放っていたリウムの存在感は別の意味で際立っている。 リウムは随分と大人しく影が薄くなっていた。 イオンはリウムとは以前と同じように普通に話したりはするものの、なんだか彼から感じる気配はどこか不穏にも思うのだ。 全てを失ったはずのレンシアが活き活きと活動していて、大きなものを得たはずのリウムが大人しくて ローラの言っていた“何かが起こる”を思い出すとなんだか不安に思えてならないイオンだった。 そしてそれに気が付いたのは、夏休みが明けてから1ヶ月近く経っている頃だった。 「…孤児の癖に次期皇帝の婚約者だとよ」 「エルメーザ様はどうも呪われているらしい」 「“大天使の生まれ変わり”なんて本当はいないんじゃないか?」 ただ食堂で夕食をとっているだけで聞こえてくる囁き声の内容は、あまり気持ちのいいものではない。 それはレンシアともリウムともいえず、両方を攻撃しているような噂だった。 目の前にいるリウムは、肩を竦めて俯きがちにカップの中を覗き込んでいる。 「気にすることあらへんよ…」 隣にいたイヴィトが気を遣って彼の肩に触れている。 うん…、とリウムは頷いているが明らかに元気がない事が窺えた。 「朝から晩まで似たような話ばかりして飽きない連中だな。 嫉妬するしか脳がないのか?」 ローラは相変わらず太々しい態度でフォークに刺した肉塊を口の中に放り込んでいる。 「ああやって気を引いて十家にも気に入られようとしてるんじゃないか?」 「卑しい身分の人間は魂胆まで卑しいみたいだな」 嘲笑する声はあまりにも頂けないものでイオンはため息が溢れてしまう。

ともだちにシェアしよう!