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眠りの淵で 5
「……おいで」
床に膝をついて、その存在に片手を差し出した。
真っ黒な闇は大きな目をギョロギョロさせながらこちらを見ている。
『イイノ……?イイノ…?』
「ええ、いいですよ」
『ドウシテ…?ドウシテ……?』
「どうして、かな…」
自分の手を見下ろす。
別に何か、有り余るほど持っているわけではない。
そこには優しさや同情があるわけでもない。
立派なものは何一つない。
だけど、分け与えても消えないと思えるような、確かな何かがあった。
「俺も貰ったのです…こうやって…」
闇は部屋の隅から這い出てきて、震える手をそっと伸ばしてくる。
その黒い闇が手に触れた。
小さくて、柔らかくて、少しひんやりとした指先。
闇はボロボロと崩れていって、中から人間が現れた。
それは小さな子どもだった。
傷だらけの手に、沈んだ紫色の瞳。
「……いつでも…“先に”貰っているのです…
それを返しているだけなのですよ、レンシア
だから、あげても何もなくならないのです」
その小さな手を両手でぎゅっと握り締めると、紫色の瞳から雫がぽとりと溢れた。
いつでも、
生きているだけで有り余るくらい先に貰っている。
だから
本当は
なにも要らない。
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