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温度 3

レンシアは部屋を飛び出し、寮を出て別の建物へと向かった。 それはついこの前まで自室だった部屋があった建物で、よく知っている廊下を走り抜け階段を駆け上がり よく知っている豪華な作りのドアの前まで走った。 そしてそのドアをノックする。 返事を待たずしてレンシアは部屋の中に転がり込んだ。 見知ったはずの部屋は、以前よりどこか雰囲気が変わっていた。 ベッドの前で項垂れている男を発見すると、レンシアは彼につかつかと歩み寄った。 「……レン、シア……?」 驚いたように顔を上げた男は、明らかに寝不足そうな顔で瞼は腫れている。 いつも隙がなく完璧に整えていたはずの髪も衣服も乱れていた。 ずっと同じ部屋だったのに、そんな様子のエルメーザを見たのはは初めてだ。 ベッドの方に目を向けると、リウムが横たわっていたが彼の眼は薄く開いていた。 「……ジョルシヒンさん…?」 思わず顔を近付けるが、まるで人形のように反応がない。 「…何を言っても聞こえていないようなんだ…」 エルメーザはぼそぼそと呟くと、両手で顔を覆った。 リウムは二回目、だとアニーフは言っていた。 レンシアは両手を握り締めて、エルメーザを睨んだ。 「エルメーザ様……、いや、エルメーザさん。お願いがあります」 「おねがい…?」 彼は呆然と繰り返す。 どこか泣きそうな目をこちらへ向けて。 「あなたは何もせず、口もきかないでください ただ、“呼ぶ”のを手伝って欲しいのです」 「呼ぶって…まさか……精霊を……?」 「俺が、話をつけます」 エルメーザは戸惑ったようにレンシアを見つめ、やがて俯いてしまった。

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