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温度 4

「だ…だめだ…危険すぎる…」 「精霊と共謀が出来ると言ったのはあなたですよ」 「しかし…」 「このままではイオンさんもジョルシヒンさんも、隔離されてしまいます。 それだけならまだしも……もしも、目が覚めなかったら…」 それ以上は恐ろしくて口に出せなかった。 エルメーザは項垂れたまま唇を噛んでいる。 「……エルメーザさん、俺は…確かに自分が“大天使の生まれ変わり”かどうか分からなかった… だけどずっとあなたの良き伴侶になるようにと努力をしてきました…、それは、偽りではない」 ベッドの中のリウムを見下ろすと、彼から伝わってくる感覚は言葉にならないような複雑なものだった。 それは、闇のように深い悲しみのようで、虚しさのようでもある。 「…でも、俺は今…イオンさんの事を大切に思っています… イオンさんは俺が何であっても、何でなくたって…手を差し伸べてくれた。 だから、俺も…何かである事よりも…自分が自分である事に誇りを持ちたいと思ったのですよ」 「自分……?」 「ええ…そうです。 “大天使の生まれ変わり”でも“次期皇帝の婚約者”でも“孤児”でも“卑しい身分”でもない。 俺は…、俺でいたい…それでいいと教えられたのです」 レンシアはエルメーザに近付き、床に跪いて彼を見上げた。 「だから…俺はもう、何も必要ない」 「レンシア…」 「お願いします、力を貸して…」 レンシアが懇願すると、エルメーザはじっと見つめてくる。 そんな風に、彼がこちらを見てくれるのは初めてだった。 深紅の瞳は美しく炎のように輝いている。 だけど今は少し迷っているようでもあった。 「…お前は…いつも、自分以外の誰かのために…力を使おうとする… 何の利益も…無いというのに…」

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