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温度 6
誰にも迷惑をかけぬように、レンシアとエルメーザは二人で森へと行った。
調べても精霊を呼ぶ儀式など具体的には分からなかったが、
魔法を一定の数値に上げることが条件のようだ。
エルメーザは光の魔法、レンシアは疎通の魔法で試す事にした。
「……本当に、良いのだな…?」
「ええ…」
成功するかは分からないが、エルメーザの光の魔法は学年でもトップだ。
あの時も自分達の所為で降霊が行われてしまったとしたら、きっと再現できると踏んでの事だった。
「エルメーザさんは…何が聞こえても…話しかけられても応えないでください
話は俺だけでしますから
もし…俺がどうにかなっても、俺だけの所為にしてください
降霊は俺が一人でやった事だと」
エルメーザは何か言いたげな視線をレンシアに送っていたが
レンシアは、これから起こる予想のつかないことを思うと俯いてしまう。
「…もし…失敗してしまったら…イオンさんのこと、お願いしますね……」
想像はしたくないことだったが、もしも何の交渉も出来ずにただ奪われてしまったら
恐らく自分はこの世界には帰って来れないだろう、とレンシアは感じていた。
精霊との交渉は、本来不可能と言われている。
彼らは狡猾に上手く口車に乗せて魔法を奪ってしまうのだと。
「…君の疎通の魔法は確かにかなりのものだが…精霊というのは交渉ができるものなのか?」
「分かりません……ただ、そうすべきだと…思ってしまったのです」
「……何故だ?」
「さぁ…敢えていうとすれば…根拠のない自信、でしょうか」
レンシアは小さく笑いながらも自分の両手を見つめた。
「何故か……“出来る”と…思っているのですよね…」
最近レンシアはずっとそんな調子だった。
根拠のない自信があって、何事も楽観的で。
あんなに先回りしてヘマのないようにと立ち回っていたのに。
それは腑抜けになっているのかもしれない。
だけれどいつも怯えて、言われた通りに型にハマろうと必死だった自分よりも、今の自分の方が好きだと感じていた。
自分に出来ることを精一杯やり尽くすような。
あの人の為なら、尚更。
「やりましょうか…」
レンシアはそう言ってそっと目を閉じた。
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