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あちらの存在 3

「黙れ……っ…、何も知らないくせに……」 レンシアは両手を握りしめながら、どこが顔なのか果たして顔があるのかどうかもわからない存在を睨んだ。 怒りに飲まれてはいけない、と自分に言い聞かせながら。 「俺があげられるものは俺の中にしかない…あの人は無関係です… 魔法でも魂でも、俺のものなら何でもくれてやります…だから、ジョルシヒンさんを…… イオンさんを…返してください……っ…」 『わが ま ま な 奴 だ… だから 嫌 い だ きら い きらい き ら い … 』 その存在が、なんだかどんどん小さくなっていくようで レンシアは負けじと睨み続けた。 真っ黒の中、なんとなくぼんやりと発光しているようなその存在を。 『ここは お前 が く るよ う な場所 では ない !』 ぼんやりとした光は小さくなり、やがてまた再び大きくなっていく。 光、のはずなのにそれは紛れもなく闇のようで何か禍々しい感覚を感じるのだ。 『だが い い だろ う … ペ テン師 め … お 前 の 不味 い 魔法 を 喰ら って や る …』 「…二人を助けてくださるんですね…?」 『ふ ひ いひひ ひひひ』 存在は不気味な笑い方をしながら、そっとレンシアの髪に触れ頬に触れてくる。 暖かくも冷たくもない、柔らかいのか硬いのかも分からない だけど悍ましくて逃げ出したくなるような感触だった。 その感触が頬をこねくりまわし、首を掴んでくる。 『なん と 弱 い 器だ … ! いひひ ひはは は  す ぐに 騙さ れ やが って…!』 狂ったように笑っているその存在に、レンシアは息苦しさを感じながらも反射的に藻搔いてしまう。 「あ、あなたを…信じたいのです……お願い…」 『信 じ る ? 実 に 愚 かな こと だ 人間 は バカ だ … 人 間 なん か に 堕ちた 自 分を 呪 え …!』 「…っ…何を、言って……」 何かが首を絞めてくる。 レンシアは争おうとしたがもう遅いようだった。 ギリギリと首に巻き付く力は強くなり、視界は滲んで掠れていく。 『こん な くだ ら ないも の の 為に ば かな や つめ … !』 やっぱり、他の存在なんて道理が通じなくて当然なのだろうか。 話せば分かるなんて幻想だったのかもしれない。

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