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あちらの存在 4
悲しみと苦しさが全身を包んでいく。
争いたくても根こそぎ力を奪われて、何もかもなくなっていくような。
死、の感覚。
「……イ…オン……さ……」
レンシアは霞む視界の中あの背中を見つけて、必死に手を伸ばそうとした。
行かないで、イオンさん。
戻ってきて。ここに。
そう伝えたかったけど、もう呼吸もままならなかった。
次の瞬間、瞼に光が突き刺さる。
首を絞めていた存在は悲鳴をあげ、首にかかっていた圧力が消えていった。
レンシアはその場に倒れ込み、ゲホゲホと咳き込んだ。
『…… お 前 …… !謀 っ たな……!』
悲痛な声をあげている存在に、レンシアは顔を上げる。
目の前に、何か青白い光が浮かんでいた。
それは煌々と輝いている。
エルメーザの光の魔法とも違うその光に、その存在は怯えているようだった。
『黙 し たな … !』
「…っ、騙そうとしたのは…あなたの方では……?」
レンシアは首を抑えながらもその存在を睨んだ。
「あなた達のいる世界とは…本来交わらないはず…
どうして魔法を食べるようとするのですか…?」
『う る さい うるさ いう る さ い …!
腹い せ に決ま っ て いる だろ う…!
ゴ ミ 虫 共が……!先に 奪っ た の は誰 だ …!?』
「え…?」
『人 間は ゴミ だ… !殺 して も い い… !
神 に 愛さ れて いる だ け の クズ 共 め…!』
「どうして……どうしてそんなに人間を恨んでいるのですか…!?」
『うる さ いうる さい う るさい うるさい うるさい !』
存在は発狂しているが、青白い光が強くなると再び悲鳴を上げる。
『俺 を見 る な … !!!』
レンシアはなんだか悲しくなって、視界には映らないその存在を見つめた。
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