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あちらの存在 6
『その必要はない。お前はもう先に渡しているはずだ』
「え…」
急に飛び込んできた声に、レンシアは目を開いて顔をあげた。
あの青白い光がこちらを見下ろしている。
その中央には、よく見ると石が浮かんでいた。
黒く光るその石は、ドラゴンから預けられたあの石だった。
『在るものを見ようとしなければ、枯渇し続ける事になる
飢えれば奪うしかなくなる
両手に余るほど持っていながら、奪う事ばかりを考えるようになれば
理から外れていく』
「……理……?」
『お前は既に果たしている。だから、思い出すだけでいい』
真っ黒だった空間が、いつの間にか徐々に開けていく。
雪のような白い何かが空間に漂っていた。
そして、座り込んでいたレンシアの手に何かが触れた。
思わずそれをつまんで、顔に近付ける。
「……これは、羽?」
美しい純白の羽は、光に照らされてきらりと輝いた。
その美しい輝きを見ていると、何故だか胸が苦しくなって涙が溢れてくる。
『望み、だ。望みを思い出すだけでいい』
「望み……?」
レンシアは呆然と羽を見つめながら呟いた。
空を飛びたかった。
窮屈なこの世界から飛び立って、すう、っと空に溶けて消えて。
『…っ飛べるわよ!!』
「ふふ……」
レンシアは泣きながら、目を細めて微笑んだ。
そして顔を上げて、その光に笑みを向けた。
「イオンさんに会いたい……
あの人の側に、いたいのです…」
本当は余るくらい持っているから、もう何も要らないくらいに。
でも、人はそれをすぐに忘れてしまうから。
近くにいるだけで、ただただ、それを思い知らせてくれる誰かが必要だと思う。
『実に、人間らしい弱くて、滑稽な望みだね。レンシア』
「うん……」
『その望みをいつでも、素直に抱えていることだ』
レンシアは笑顔で頷いた。
いつか、あなたも思い出してくれたらいいな。
だけどそれは自分にしか気付けないものだから
ただ、祈ることしか出来ないよ。
でも、祈っているから。
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