264 / 513

世界とさよならする前に

「男が好きとかマジで気持ちわりー」 「こっちくんなよホモ野郎ー」 「うるさいわね!アタシにだって好みくらいあるわよっ!」 「あははは」 誰といてもいつも孤独だった。 だけど一人になると余計にその孤独は襲い掛かってきて、飲み込まれそうになるから。 望んでもいないような場所に留まってしまった。 「俺は井小田がいいやつだって知ってるよ」 「え、あ…うん…ありがとう……」 好きな人がいたけど、手を伸ばせなかった。 「お前あいつと仲いいじゃん?まさか…?」 「いやいやないない…俺普通に女の子が好きだし」 「でも絶対勘違いしてるってー」 「マジかよーやべえー」 手を伸ばす資格すらなかった。 「井小田くん、ついでにこれも頼めるかな?」 「え…でも…」 「しょうがないだろ、君以外はみんな家庭があるんだから」 「そっすよね…わかりました…」 何も持ってない。 持つ事すら許されない。 「正直に申し上げますと……もう、この段階では治療は……」 無駄だとわかっているのに心がどうしようもなく動いて それに翻弄されて、振り回されて、 傷付かなくてもいいのに傷付いて そんな事にすら気付かないように蓋をし続けた。 自分は何のために生きていたのか? 何か意味などあったのだろうか? 本当は、悪いのは世界でも社会でもなくて ただの臆病者の自分で。 「イオン、選んでいいんだよ?君が好きなものを選びなさい」 「うーん……なんでも、いいけどなぁ……」 例え全てが違うように産まれたとしたって 結局、虚しく死んでいくだけの存在なのではないだろうか? 「……イオンさん…!」 果たして後悔するぐらいの事だったのだろうか。 「イオンさん……っ!」 どうして? 泣かないで。 誰が泣かせているの? 俺が? 「行かないで……っ…」 後悔、する、ぐらいの。 事、だ。 あの人が、泣く、くらいなら。 それを知らずに死んでいくくらいなら。

ともだちにシェアしよう!