265 / 513
死に行く時は後悔のないように 1
頭の激しい痛みを感じながら、イオンは目を覚ました。
ズキズキとした痛みに翻弄されながらも、見えている天井が一瞬どこのものなのかわからなくて
混濁した記憶の中彷徨い、何か声を出そうと喉に力を込めた。
「ん゙……」
喉がガラガラで全身が鉛のように重たくて、だけどそのまま転がっていると恐ろしい事になってしまいそうで
イオンは無理矢理身体を起こし、両手で頭を抱えた。
「い…った…ぁ……一体何が……」
何をしていたか思い出せないが、気を失っていたらしい事だけはなんとなく分かり
イオンはどうにか思い出そうと思考を巡らせた。
なんだかとても嫌な夢を見ていた気がする。
そして、誰かが泣いていたような。
「イオンさん……」
両手で目を擦っていると飛び込んできた声に、そちらに目を向けた。
そこには一人の人間がいた。
金色の髪は乱れていて、紫色の瞳から涙を溢している。
寝不足そうな顔を晒しているその姿が網膜に焼き付くと、イオンは時が止まったようにただただその顔を眺めていた。
「れん…しあさん…?」
「よか…、よかった…」
レンシアはイオンに抱きついてきて、うえぇぇん、と泣き始めてしまう。
その子どもみたいな泣き方は相変わらずらしいが、それを聞いていたのもなんだかずっとずっと前の事で
彼と会ったのも久しぶりな気がしてしまうイオンだった。
「レンシアさん…」
じわじわと身体から伝わってくる彼の感触や体温に、何故だか涙が込み上げてくる。
ずっとずっと、この人に会いたかったような気がする。
何年も何十年も。
「…っ…レンシア…さん………!」
イオンはそんな変な感覚に翻弄されながらも、腕の中の存在を噛み締めるように抱きしめた。
何故だか、もう会えないと思っていた気がしていたのだ。
「…あなたが、居なくなってしまったらどうしようかと……」
レンシアは泣きじゃくった顔をこちらに向けてくる。
紫色の瞳からはぽろぽろと綺麗な透明の雫が溢れている。
ともだちにシェアしよう!

