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非難轟轟 4

いつまでも落ち込んでいてはいけないと思いながらも、イオンは苦笑する。 「…俺…意識なくなって…また死ぬんだって思った時に…凄く後悔したんだよね… こんな事なら気持ちを伝えておけばよかったって…」 あの時のことは薄っすらとしか覚えていないけど、死の恐怖はなんだか魂が覚えているみたいだった。 “一度目の死”の時は、何に対して後悔しても遅いような気がしていたけど 今回は明確に、レンシアのことを思い出してしまったのだ。 イオンはジャケットのポケットからハンカチを取り出した。 「…俺が意図したようには伝わらなかったかもしれないけど… 何にも言わないよりは…何も伝えられずにいるよりは…よかったよね…」 金色の刺繍は、あの何も無い空間でも彼のことを思い出させてくれて。 イオンは震えながらもそのハンカチを握りしめた。 「それは?」 リウムにじっと見つめられて、イオンは力無く笑った。 「レンシアさんがくれたんだ…」 「あー、そういやその刺繍古典魔法っぽかったよな… ヴェネッタ先輩わかる?」 「刺繍…?」 イヴィトがヴェネッタに聞いていて、イオンは彼にハンカチを見せてみた。 「どれどれ…?ふむう……」 ヴェネッタは眼鏡を押し上げながら刺繍を眺めていたが、ん?と眉根を寄せている。 「見たことのない陣ですなぁ…確かに何かの魔法の式のようですが…」 「僕にも見せて?」 リウムも口を出してくるのでイオンは彼にも見せてやった。 魔道具屋のヴェネッタでさえよく分かっていないようだったが、リウムはじっと刺繍を見つめると やがてじろっとこちらを睨んでくる。 「……イオンくん…、もう一回ちゃんと…先輩と話した方がいいと思うよ」 「…え…?」 いつもはニコニコしている彼が急に真顔で呟いてくると、イオンは多少なりともドキッとしてしまう。 「先輩チョロいから、押し倒せば勢いでいけるんじゃない?」 「さ、さいてー……」 リウムは平気でそんな事を言っており、ちゃんと聞いて損した、と思うイオンだった。

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