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保護者 5

「失礼するよ」 ドアが開くと、一人の男性が部屋へと入ってきた。 そしてイオンとレンシアの背後に立つと二人の肩に触れて間から顔を出してくる。 イオンは思わず彼を見上げて目を開いた。 上等そうなブラウンのスーツ、焦茶色の髪を撫で付けていて 素人には全然分からないが多分高そうな香水の匂いを纏っている。 そのオーラは如何にも身分が高くて偉い人ですといったもので 現に協会員は血相を変えて腰を浮かせている。 「は、ハートン卿…」 「うちの生徒が世話になっているみたいだね」 「理事長先生…!?」 口元に不敵な笑みを浮かべている男は、ハートン学園の理事長だった。 イオンがドアの方を振り返ると、扉の影からローラが変な顔をして手をグーパーしているのが見えた。 なんのハンドサインかは全く分からなかったが、多分追い風だと解釈して理事長を見上げる。 「あの…レンシアさんがドラゴンを孵化させちゃって…」 「ロ…サンイヴンくんから話は聞いたよ。ドラゴンに預けられたそうだね」 「……ええ、ですが…飼育の許可には…保護者の、…大人の方の同意がいるそうなのです…」 「ふむ。なるほど? ドラゴンが人と過ごす場合は、基本的には彼らの意思決定のみが重要でこちらからはあまり干渉できないはずだがね。 共に過ごす相手はドラゴン自身が決める事だ」 イオンも全く同じような事を言ったはずだが、 協会員は滝のように汗をかきながら、はぁ…、と返事をこぼしている。 「で…ですが一応飼育に関しては法律がございまして…」 「大人の同意だったね」 「そう……ですね…、やはりそのう… 監督責任であったりとか…犬猫とは違うわけですし…それにブラックダイアドラゴンは非常に珍しく……」 「では私がサインしよう。書類を持ってきたまえ」 理事長の言葉にレンシアもイオンも同時に彼を見上げてしまう。 「ええ…!?で、ですがそのう……あなた様はレンシアさんの保護者では…」 「彼はうちの学園の生徒だぞ? 私は学園の生徒全員の保護者みたいなものだ。 それにドラゴンと過ごすとなれば必然的に学園で過ごすことになる。先生方は皆上級魔法使いだ。下手な施設よりも安全と言えると思うが?」 理事長は笑顔のまま圧をかけていて、協会員の男はそろそろと椅子から立ち上がった。 「ええ……ええ……では…そのう…… 書類を持ってまいりますね……」 男は脂汗と苦笑を浮かべながら再び部屋から走り去ってしまった。

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