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野暮用 1

これは、夢の世界なのかもしれない。 だけれどローラも、全ては同時に存在していると言っていたから この世界は確かに実在しているものではあるのだろう。 鏡の中の自分は明らかに浮かれた顔をしていて イオンはどこか他人事のように、よかったな、と思うのだった。 35年と18年くらいの苦悩が報われたような、そんな気分だった。 昨夜、イオンは遂に我慢出来なくなってレンシアに恋人になって欲しいと言ってしまった。 付き合うという概念は日本特有のものだとも聞くけど、やっぱり曖昧な関係のままでいるのはなんだか不義理な気もしたし イオンはやっぱり、いずれは結婚したいと思ってしまっていた。 ドラゴン保存協会での一件があったからというわけではないけど、レンシアは今天涯孤独の身で 本人もとてもそれを引け目に感じていそうだったから。 別にそうでなくてもイオンは余裕で籍を入れたすぎると思ってしまっており、 見ているだけで良いとかいうのはとんだ嘘つきだったなと恥ずかしくなる。 人間というのはやはり欲の尽きない生き物で、本当に最初は、好きな人さえ出来ればとすら思っていたのだから。 洗面台で顔を洗って髪を整え、 朝の支度を終えて部屋に戻るとレンシアは部屋の中をうろうろしてベッドの下を覗いたりクローゼットを開けたりしている。 「…どうしたんすか?」 レンシアは焦ったような表情で、ええ…、と言いながら布団を捲っている。 「ジンシーバさんが見当たらなくて…」 「あれ?そういえば…」 「さっきまで居たはずなのに……」 昨日産まれたばかりのドラゴンの姿が無いようだ。 そんなに広くない部屋なので隠れる所などは限られているが、レンシアは探し尽くしたのだろう。

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