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同じ日生まれ 4

“大天使”とは。 かつて人間は魔法を持たず、野蛮で、他の種族を力で捩じ伏せ、同じ人間同士で戦いを繰り返していた。 それを憂いた神々は人間に魔法を与えた。 心を磨き、他者を思いやり、愛の元に発揮される力が魔法だと。 そしてそれを教え導くように、大天使が舞い降りて人々に魔法を説いた。 なにかに飢え、枯渇し、奪う事に支配されていた人間の心は魔法と大天使の導きにより 徐々に慈愛と平和を取り戻していった。 大天使は人々を見守る為神の元へは帰らず、その身を人間へと堕とし 今も魂は繰り返し人間の身体に宿ることで、平和を見守っているのだという。 “予言の光”の教えではこうだ。 大天使は人間だけでなく地上の全ての存在を慈しみ、その架け橋となるような存在で 癒しの魔法はただ怪我や病気を治すことよりも、心や精神に平穏をもたらすというのが本質なのだという。 故に歴代の“大天使の生まれ変わり”は、みな博愛主義で奉仕的慈善的であり、他種族との交流も盛んで 皇帝家を通して様々な種族と和平を結び、中には皇帝や貴族達を説得し戦争を止めたという逸話も残っている。 “予言の光”はあくまでも一部の個人的解釈と見解で書かれた同人誌ではあるのだが、 とてつもなくレンシアに当てはまっている気がしてならないイオンだった。 レンシアがなんであってもイオンの気持ちは変わらないけど、 使命だの運命だの言われたら太刀打ち出来ないような気もしてしまう。 他種族との架け橋だとか、戦争を止めるだとか、世界に大きな影響を与える人間なのだとしたら 皇帝家だけでなく国にとって必要な人材になっていくに違いないし。 色々考えてしまうと自分のちっぽけさに嫌気がさすけど、 目の前にいるレンシアはドラゴンの赤子に翻弄されてバタバタ走り回っているただの一人の人間で。 ドラゴンを叱り付けている姿を見ているとイオンはただただ、俺も叱られたい、とかいうわけのわからない欲求が出てきてしまうのだった。

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