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奪わないために 1

生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていたレンシアは、自分の生まれた日はおろか親の顔なども知る由もなかった。 孤児院では、この国には珍しい金色の髪の所為で、他所の国からわざわざ捨てられにきたのではないかと言われていた。 よっぽど、邪魔だったらしい、と。 粒子を混ぜ合い、魂を宿す作業は簡単ではないはずだったが 儀式をしなくとも関係性の深まった二人の間に、ある日突然子どもが産まれてしまう事も稀にある。 そして大概孤児院に捨てられる子どもというのは、関係性が深まった相手というのが正規にパートナーだと認められていなかったり、 どちらかの想いが強すぎたという場合ばかりだ。 きちんとした儀式を行わずに産まれた子ども達は、少しばかり欠けた部分があったり 精神的に不安定なことも多かった。 劣悪な環境が余計にそうさせて、物心がつく前に亡くなってしまう事も少なくはない。 無駄な夢を見て夜泣きを繰り返し弱っていくような事態を防ぐ為に、親の事を知らせない場合も多かったので 本当の所はどうか知らなかったが、恐らくは望まれない子ではあったのだろうとレンシアは納得していた。 だけど、まさか自分に産まれた日を知れる時が来るなんて思いもしなかった。 緑が美しく栄えて少し暑くなりかけ、 太陽が眩しく輝く今日みたいな日、だったのだろうか。 そう思うと不思議な感じだった。 レンシアは温室で鉢植えの植物達にジョウロで水やりをしていた。 先日産まれたばかりだというのに、ドラゴンのジンシーバは四足歩行でよちよちと歩いてジョウロから出てくる水を眺めている。 「ふふ。面白いですか?」 黄色い目をまん丸に見開いている様子を見ると、世界の全てが新鮮なのだろうなと微笑ましく思ってしまう。 使命を持ち、産まれてくる。 共に生き、見送る。 ドラゴンに教えられた言葉は、壮大すぎてまだ実感は湧かなかったが 人間よりもずっと長生きをするはずのドラゴンは、自分を見送ってくれるのだろうか、とレンシアはドラゴンを見つめた。

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