349 / 513
奪わないために 2
「…なんだか…不思議ですね…
俺はずっと、一人きりで生きていくのだろうなと…思っていたのに…」
孤児院にいた頃、レンシアはたくさんの子ども達と共にいても独りだった。
ヴァガ伯爵の養子となっても、エルメーザの婚約者となっても
なんだか、誰かと一緒にいるとか、ずっと一緒にいてもらえるという感覚が分からなかったのだ。
全てを失うとそれがより顕著で、やっぱりそうやって孤独に過ごしているしかないのだと思い知ったのに。
水をやり終わると、ジンシーバはよちよちとレンシアの近くにやってきて大きな口を開けて見上げてくる。
『おれ!いる!』
ネルシャとは違いジンシーバは生まれたての赤ちゃんなのでまだ言葉は不安定のようだったが、
それでも言わんとしている事は伝わってくるので
レンシアは床に膝をつくようにしてしゃがむとその頭を撫でてあげた。
「ありがとう、ジンシーバさん…」
もう一人じゃない。ジンシーバさんもいるし、それに、イオンさんも。
一緒に居たいと言ってくれた。幸せにする、なんて。
イオンのことを想うとレンシアは胸の中が暖かくなって目を細めた。
「俺はとても幸せ者になってしまいましたね」
『しあ?』
レンシアは愛おしさが溢れてきてジンシーバを抱き上げて、
ぎゅうっとその不思議な感触のする体を抱きしめるのだった。
「…こんな所にいたんだ」
気配なく突然聞こえてきた声にレンシアはびくりと身体を強張らせ、振り返った。
ともだちにシェアしよう!

