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奪わないために 4

「優れた“癒しの魔法使い”……ねえ……?」 肩を竦めながらもリウムは苦笑している。 「エルメーザはきっと誰でも良かったと思うよ。 でも…先輩だけはダメなんだ。…“僕が”嫌なの。 だって先輩がエルメーザと婚姻すれば、“世界は救われてしまう”からね」 「……は?」 彼の言っている意味はますます意味不明で、レンシアは目を見開いた。 「先輩は、人間に殺されて…人間は全てを手に入れる。 世界は人間が支配するようになり、人間はこう書き記す “世界は救われた”。“世界に光が齎された”。 ……でも当然あちらの存在はそれを良しとはしない。 世界に必要なのは“光”だけではないからね……」 腕の中にいたドラゴンが唸りながら飛び出そうと藻搔き始め、レンシアは慌ててその身体を押さえ付けるように抱き留めた。 するとリウムはぎろりとドラゴンを睨み付ける。 「…この前産まれたばかりの癖に分かったような口効かないでくれる?」 ドラゴンは急に弱気な声を出し始めたが、それでもリウムを睨んでいた。 この人は本当に人間なのだろうか、とレンシアは不思議に思ってしまいリウムをきっと見据えた。 「あなたは…何者…?」 「何者でもないよ…知ってるでしょ? 卑しい孤児で…あんたから全てを奪って… 今は…“次期皇帝の婚約者”で“大天使の生まれ変わり”…だっけ? 或いは癒しの魔法を持ってると嘯いてるペテン師?」 「なんですって…」 「あれぇ…?本当に知らないの?…イオンくん言ってないんだ… やっぱりヘンだなぁあの人は……」 リウムはそう言いながら気怠そうに木箱の上に仰向けに倒れている。 そして片手を天に向かって伸ばすとくるくると指先で空中をなぞり始める。 するとピンク色の輝きが溢れ出し、それは癒しの魔法だった。 しかし次の瞬間その魔法は炎の渦へと変わり、彼が指先を降ると泡のような水の球体へと変化していく。 そして球体はガラスのドームのようになり、それは守護の魔法の障壁のようだった。 確かリウムの上位能力は癒しと光のはずだ。 沢山の種類の魔法を自由に扱っているように見えて、レンシアは驚いてしまう。

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