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奪わないために 5

「魔法は神から授かった…。果たして本当にそうなのかな? だって、人間は自分に都合よく解釈する生き物で…どこまでも貪欲な恐ろしい存在… どれだけ文明が進んで社会が立派になったって人間の浅はかな本質は変わりはしないんだ」 リウムが手を下ろすと魔法は夢のように消えていってしまった。 「……あちらの存在は言っていたよ。 人間は、神から魔法を“奪った”と」 「…奪った……?」 「…皇帝家が何故“大天使”と交わろうとするか分かる? “大天使の魔法”だけは人間のものにはならないからだよ。 幾ら番になって子を成したとてその魔法は継承されないというのに… それでも試みる醜さ…そしてせめて手元に置いておこうとするその強欲さ。 執念…とも呼べるかもしれないね。 その長きに渡った執着が、どうやっても奪えなかったものを手に入れる算段を思い付いてしまうんだ …恩知らずにもね……」 リウムの話は歴史を無碍にするようだったが、違うとも言い切れない。 だけど彼が人間を憎んでいるらしい事はずっと前から伺えていた事だった。 「…どうして、そんなに人を嫌うのですか…?」 「嫌ってなんかいないよ。呆れているんだ どう足掻いたって僕もずっと人間だから、その事を含めてもね」 リウムはまた気怠げにため息を溢している。 「………先輩、イオンくんのこと好き?」 急に個人的な質問をされて、レンシアはジンシーバを見下ろした。 ドラゴンはいつの間にかどこか怯えたように震えながらもレンシアの服を掴んでしがみ付いている。 「…イオンさんは…大切な人です…… あの人のおかげで俺は今…、こうしていられる…」 イオンとは出会ってまだ日は浅いのかもしれないけど、レンシアにとっては既にもう無くてはならない人のように想えてしまっているのは間違いない。 彼の笑顔を思い出すと胸が熱くなって、その腕に飛び込んで行きたくなって。 レンシアはジンシーバを抱えながらようやく立ち上がった。 「……そっか。よかった」 リウムは淡々とした声で呟くと、またため息を溢しながら身体を起こした。

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