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アンチテーゼ 5

イオンは椅子から立ち上がって、レンシアの元に行き床に跪いた。 「…ごめんね。リウムから話を聞いて俺は…レンシアさんがエルメーザくんに取られちゃうかもと思って話せなかったんだ…。 まあ…国家を揺るがす事だから俺なんかがペラペラ喋っていい事じゃないんだけどさ。 …自分のことを考えちゃったのは本当」 レンシアは紫色の瞳を不安げに曇らせながらイオンを見下ろしてくる。 「でも…俺はやっぱり…好きで大切に想ってるなら、応援しなきゃいけないと思う… レンシアさんが決めた事に…それで俺に出来ることがあれば絶対助けたい… だから…レンシアさんがどうしたいのかを教えて欲しい」 レンシアの瞳は涙の幕が張ってうるうると輝いていた。 それを見ていると独り占めしたいような気持ちが頭の中に充満してしまう。 だけどイオンは彼の両手を取って、小さく微笑んだ。 「……付き合ってとか言っといてごめんね…… でもレンシアさんがエルメーザくんと元に戻りたいなら… 俺は……がんばって…お゙っ…応援する゙よ゙…」 イオンは結局レンシアの顔を見れずに俯きながら血反吐を吐く思いで呟くが、両手はしっかりと握り締めてしまうという格好が付かない結果に終わってしまった。 しかし、その気持ちは嘘ではない。 好きな人に、好きと言って貰えた奇跡が起きた事には代わりない。 だけど好きな人には、いつでも幸せでいて欲しいのだ。 その隣に、例え自分が居られなくたって、とイオンは思っていた。 「自分がどうすべきなのか……正直分かりません でも……俺は……、 エルメーザさんと元に戻るなんて…」 レンシアはぼそぼそと呟きながら、イオンの手をぎゅうっと握り返してくる。 「…結構死んでも嫌かもしれない………」 「し、死んでも……?」 「ええ……死んでも……」 結構な事を言っているレンシアを見上げると、彼は泣きそうに目を細めている。

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