359 / 513

アンチテーゼ 6

「またあの契約をするなんて…」 小さく呟き、レンシアはとうとう両手で顔を覆ってしまった。 契約とは婚約の事なのだろうか。 そんなにエルメーザの事が嫌いなのかとホッとしてしまう性格の悪い自分がいる事に気付くイオンだった。 「でも俺が…贅沢を言えるような立場ではないことは分かっています… 俺の好き嫌いで決めていいことではないとも…」 レンシアは顔を覆ったまま首を横に振っているが、その声は涙で濡れている。 「そうかなぁ…俺はレンシアさんが決めていいと思うよ。 どうせ悩んで落ち込むんだったらさ、 どう諦めるかよりも、どうやって叶えるかで悩んで落ち込んだ方がよくない?」 「……どう…叶えるか…?」 「そう。何を選んでも戦う事にはなるんだと思う…。何を選んでもどうせ死ぬし。 だったら、戦ってもいいと思えることで戦って死んだ方がさ、俺はいいと思ってるんだけど…」 レンシアは涙が溢れている目をこちらに向けてきて、イオンは彼の下瞼を拭ってやりながら微笑んだ。 誰かの為なら自分を犠牲にしても厭わないと考えているレンシアは、きっと様々な事を我慢してしまえるのだろう。 だけどそんな生き方は悲しい、気がして。 イオンは大切に想っているレンシアに、井小田と同じ目にはあって欲しくなかったのだ。 「俺は好きな人に…後悔しないように生きて欲しいんだよ」 「イオンさん……」 「だからあれだよ…別にエルメーザくん以外でも…レンシアさんが他に好きな人できたとかでも…お゙…応゙援゙ず゙る゙じ゙…」 イオンが再び血反吐を吐いていると、レンシアはどこか呆れたように首を傾けてそっと頬に触れてくる。

ともだちにシェアしよう!