378 / 513

覚えていたいこと 5

「この子のおかげで分かったのですよ」 レンシアはそう言いながら、肩の上に乗ってじーっとケーキを見ているドラゴンを撫でた。 「エルメーザもなんかお祝いしてあげたら?」 「むう……」 リウムに肘で突かれて、エルメーザは唸りながらもローブやジャケットのポケットに手を突っ込んだりしている。 そしてポケットから何かを取り出すとこちらに近付き、腕を差し出してくる。 「今はこれしかない。受け取れ」 レンシアはきょとんとエルメーザを見上げながら反射的に両手を差し出してしまうと、ジャラジャラと金貨が彼の手から溢れ落ちてくる。 「げ……現金……?」 「親戚のおじさんかな?」 「ほんっとエルメーザくんって最低と思うわ…」 「リウムとは案外お似合いなのかもしれんなァ…」 「どーいう意味かなぁ?サンちゃん?」 「し、仕方ないだろう!?急に祝えと言われても…!」 手のひらに積み上げられた金貨は結構な大金な気がしたが、あのエルメーザが素直に何かをくれる事自体にレンシアは驚いてしまった。 「…よろしいのですか?」 「受け取れないとでも?」 「い…いえ…ありがとうございます……」 「圧かけるなよエルたんー」 「なんか手切れ金みたいだよねぇ?」 「ぞ、贈賄ってやつでしょうか…!?じ、自分みみみ、見なかった事にします…!!」 「な…!私は、そんなつもりでは……!」 わちゃわちゃし始める面々だったが、 レンシアは沢山もらったプレゼント達を眺めて目を細めた。 内容はともかく、こんな風に“レンシアに”何かを貰ったのは初めてで、 それに誕生日を祝ってもらう事だって考え付きもしなかった。 自分には絶対に得られないものだと思っていたから。 「皆さん…ありがとうございます…… 俺、こんなに良くしてもらえる事なんて……、っ……今までなかったかも……」 色々な思いが込み上げてきて、レンシアはつい涙が溢れてきそうになってしまう。 「ちょっと!泣くのはまだ早いでレンシー!」 「そうだぞ?俺たちは前座だ。本番はこいつだろ」 「そんなハードル上げんでもろて…!」 そう言いながらローラはイオンを引っ張ってくる。

ともだちにシェアしよう!