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覚えていたいこと 5
「この子のおかげで分かったのですよ」
レンシアはそう言いながら、肩の上に乗ってじーっとケーキを見ているドラゴンを撫でた。
「エルメーザもなんかお祝いしてあげたら?」
「むう……」
リウムに肘で突かれて、エルメーザは唸りながらもローブやジャケットのポケットに手を突っ込んだりしている。
そしてポケットから何かを取り出すとこちらに近付き、腕を差し出してくる。
「今はこれしかない。受け取れ」
レンシアはきょとんとエルメーザを見上げながら反射的に両手を差し出してしまうと、ジャラジャラと金貨が彼の手から溢れ落ちてくる。
「げ……現金……?」
「親戚のおじさんかな?」
「ほんっとエルメーザくんって最低と思うわ…」
「リウムとは案外お似合いなのかもしれんなァ…」
「どーいう意味かなぁ?サンちゃん?」
「し、仕方ないだろう!?急に祝えと言われても…!」
手のひらに積み上げられた金貨は結構な大金な気がしたが、あのエルメーザが素直に何かをくれる事自体にレンシアは驚いてしまった。
「…よろしいのですか?」
「受け取れないとでも?」
「い…いえ…ありがとうございます……」
「圧かけるなよエルたんー」
「なんか手切れ金みたいだよねぇ?」
「ぞ、贈賄ってやつでしょうか…!?じ、自分みみみ、見なかった事にします…!!」
「な…!私は、そんなつもりでは……!」
わちゃわちゃし始める面々だったが、
レンシアは沢山もらったプレゼント達を眺めて目を細めた。
内容はともかく、こんな風に“レンシアに”何かを貰ったのは初めてで、
それに誕生日を祝ってもらう事だって考え付きもしなかった。
自分には絶対に得られないものだと思っていたから。
「皆さん…ありがとうございます……
俺、こんなに良くしてもらえる事なんて……、っ……今までなかったかも……」
色々な思いが込み上げてきて、レンシアはつい涙が溢れてきそうになってしまう。
「ちょっと!泣くのはまだ早いでレンシー!」
「そうだぞ?俺たちは前座だ。本番はこいつだろ」
「そんなハードル上げんでもろて…!」
そう言いながらローラはイオンを引っ張ってくる。
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