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覚えていたいこと 7
鼻水も垂れてきそうな勢いで涙が溢れ出してきてレンシアは絶対に顔を見られたくないと思うのだけど、一緒にフードを被らされたジンシーバが抜け出そうと藻搔いていて
結局フードが取れてしまった。
「な…泣くほどに……?」
「はぁ…全くお前は聡いんだか疎いんだか…」
「嬉し泣きやんなー?レンシー?」
動揺しているイオンに、ローラ達はニヤニヤと笑っている。
イヴィトの言葉にレンシアは両手で顔を覆いながらこくこくと頷いた。
「ありがとゔ…ございます……」
レンシアが鼻を啜りながらどうにかお礼を言うと、イオンはよかったー、と微笑んでいた。
その笑顔が、大好きで、大好きで仕方がなくて。
みんながいなかったら押し倒してキスをしまくっていたかもしれないくらいだった。
「あはは。先輩愛されてんじゃーん?」
「ひぃ……泣いてても美しすぎる…!」
「よし。じゃあケーキだケーキ。とっとと切り分けて食うべ」
「ええっと…7人……」
『けえき!』
「…と1匹、やんな?…8等分となると…」
「ドラゴンってケーキとか食べても平気なのかな…
チョコは犬猫には毒だった気が…」
「あ、じ、自分お皿貰ってきます…!」
テキパキと動き始める面々にレンシアは涙をごしごしと拭った。
ジンシーバはテーブルの上に顎を乗せるようにして目をキラキラと輝かせている。
「ケーキまで頂いていいのですか…?」
「これは学園からや
申告すれば誕生日に作ってもらえるんやってー
もちろん裏メニューやけどな?」
イヴィトは丁寧にケーキを切り分けている。
隣に立っていたイオンを見上げると、何故か彼はドラゴン飼育ガイドブックを真剣な顔で読み込んでいる。
ああ、こんなに幸せでいいのだろうか。
きっと自分は望まれていない子で、そう思っていたのに。
産まれてきたことをこんなにも祝われることがあるだなんて。
折角泣き止んでいたけど、レンシアはまた泣いてしまいそうになりながら心を喜びで満たすのだった。
その日のケーキの味は一生忘れられないのだと思う。
チョコレートの味よりも重要なのは、狭いテーブルを囲んでみんなで食べた事かもしれない。
リウムはエルメーザに、あーんしてあげようか?といって揶揄っていたし、ヴェネッタはずっと恐れ多いとイヴィトの背中に張り付いていて、ローラは自分でプレゼントしたはずの酒をあけようとしており、イオンは口の周りがベタベタになっているジンシーバに結局食べさせてあげていた。
騒がしくて、テーブルマナーもあったものではなかったけど。
とても、とても、楽しくて幸せだった。
もう何も、要らないというくらいには。
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